― 105 ―の独創性を究明することができないだろうか。おわりに─総括と今後の課題このように、竹内栖鳳晩年の水墨風景画を巡って、絵画表現と発表状況、制作の背景と契機、紙本と水墨画に纏わる画壇動向と、多様な観点から調査研究を行った。本調査研究によって、水墨画の描法に対して実見に基づく考察を進め、また作品の画稿となる写生帖の全容を分析し、さらに、必ずしも明らかにされてこなかった基底材の実態を試験的に解明することができた。このような作品、素描、基底材の内実に迫る調査とともに、展覧会や作品に関する文献資料・図版資料の調査を幅広く行い、仔細な対象分析と充実した資料分析を並行させるに至った。このことは、竹内栖鳳の定型的な評価である「写生」の近代化の先にある、絵画表現の模索の様相を紐解く重要な手立てとなった。本論文でやむなく割愛した詳細な調査結果とそれに基づく論考については、博士論文や学会発表をはじめ今後順次公表する予定である。また、本研究は栖鳳晩年の水墨風景画を出発点とするため、彼の画業を捉える上で考察の視野が水墨という表現技法、潮来という取材場所に限定される傾向が否めない。今後の課題として、栖鳳晩年期の絵画表現の全容を網羅した上で水墨風景画の価値を検討する研究を目指したい。謝辞 本調査研究においては、石橋美術館 平間理香氏、桑山美術館 桑山武氏、同館 前田明美氏、足立美術館 安部則男氏、京都市美術館 吉中充代氏、高知県立紙産業技術センター 有吉正明氏に御教示を賜りましたことをここに深謝致します。(御協力者の記名は本原稿内の順序に従う。)注⑴竹内逸監修、原田平作編『竹内栖鳳』(光村推古書院、昭和56年)によれば、制作年は大正14年頃であるが根拠は不詳である。⑵淡交会に関する主要な先行研究に、『市井展の全貌 淡交会、珊々会、尚美展から東京会まで(戦前編)』(八木書店、平成24年)、『三越美術部100年史』(三越、平成21年)がある。⑶京都市美術館が所蔵する潮来取材の写生帖全3冊を閲覧した。同帖の素描の一部は、『叢書「京都の美術」Ⅲ 竹内栖鳳の素描 資料研究』(京都市美術館、昭和56年)に掲載される。⑷初代岩野平三郎の画紙開発に関する主要な先行研究に、成田潔英編『紙漉平三郎手記』(製紙博物館、昭和35年)、高橋正隆『絵絹から画紙へ 岩野平三郎伝』(文華堂書店、昭和51年)、『史料絵絹から画紙へ 岩野家所蔵近代日本画家・学者等の書簡集』(岩野家所蔵書簡集刊行会、平成13年)がある。⑸大正14年3月29日付の初代岩野平三郎宛の竹内栖鳳書簡により推定される。
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