― 110 ―⑪古代マケドニアにおけるアレクサンドロス大王の美術について─ヘレニズム時代の葬礼美術への展開とその影響─研 究 者:実践女子大学 文学部 美学美術史学科 助教 筑波大学大学院 人間総合科学研究科 博士後期課程 中 村 友 代1.本研究の目的本研究の目的は、古代マケドニア(現ギリシア北部)のアレクサンドロス大王(以下「アレクサンドロス」、在位:紀元前336~323年)に関連する美術作例を調査対象とし、彼の政治・文化政策が、ヘレニズム時代の葬礼美術へどのような影響をもたらしたのかについて、理解を深めることにあった。従来、アレクサンドロスの美術史研究では、豊富な文字資料との比較研究が積極的になされてきた。そのため主題や登場人物の解釈においても、表現と文献との一致が探し求められる傾向にあった。しかし同時代、あるいは同主題の関連する美術作例との比較による考察は、未だ十分に成されていないように思われる。筆者は帝京大学教授で歴史研究者の森谷公俊氏の協力を得て、2014年8月28日から9月6日にかけて、テッサロニキ、ヴェルギナ、ペラ、ディオン、レフカディア、アンフィポリス、カヴァラ、フィリッピ、そしてイスタンブールの各考古博物館と関連史跡にて、目視及び撮影による調査を実施した。アンフィポリスでは2014年8月に発見されたばかりの大墳墓を訪問し、またレフカディアでは現地研究者2名(K. タンケ氏、K. ユファンティディス氏)の協力を得て、現在修復中で非公開の古代マケドニア式墳墓3基(「キンチの墓」、「裁判の墓」、「パルメットの墓」)の建築装飾や墓壁画の現状調査を行なった。現地調査の結果から、古代マケドニアの美術においてその表現にアレクサンドロスの政治的・文化的政策の影響を端的に窺うことが出来る作例として、ヴェルギナ第2墓の入口上部を飾る壁画(以下、《狩猟図》〔図1、2、3〕)が改めて重要であると思われる。本研究では、この《狩猟図》における「獅子狩り」のモチーフに着目し、関連作例との比較を行なったことで、登場人物に関する解釈や表現に込められた意図について新しい知見を得るに至った。アレクサンドロスがヘレニズム時代の美術にどのような影響を与え、その展開にどう関わったのか。本研究を通してその一端を明らかにしたい。
元のページ ../index.html#120