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― 120 ―⑫ レイモン・デュシャン=ヴィヨンの素描におけるキュビスム形成の諸要因─1907年から1912年の身体像を中心として─研 究 者:名古屋大学大学院 文学研究科 特任講師  松 井 裕 美1.素描コレクションの概要レイモン・デュシャン=ヴィヨンは今日、キュビスムの彫刻家として知られている。1907年以降兄ジャック・ヴィヨンと共にピュトーにアトリエを構えるのだが、この場所こそが1910年以降、いわゆるピュトー派のキュビスムの拠点となる。彼は1918年にその生涯を閉じるまで数多くの素描を残しており、大部分がポンピドゥー・センター、フィラデルフィア美術館およびルーアン美術館に収蔵されている。これら公的施設に所蔵された素描の全容は今日に至るまで明らかにされていなかったために(注1)、本研究ではまず未刊行のものを含むそれらのコレクションを徹底的に調査し、各々の素描の年代の特定を試みた。年代特定にあたっては、日付の記載された手紙や展覧会の招待状の裏に描かれた素描を年代特定の際の基準とし、それらの素描との関連からその他の日付のない素描の制作年代を推定した。またこれまでの主要研究において採択された年代も参照したが(注2)、いくつかの素描に関しては年代の見直しを試みた。結果以下のような美術館におけるコレクションの全体像が明らかとなった。ルーアン美術館には、1907年から1909年制作の5点が1959年に購入されている。さらに1998年には芸術家の遺族の作品の後継者の一人であったアラン・ムニエにより、1905年から1909年まで使用された1冊の素描帖と、1895年から1918年の広範囲に亘る75点の素描が寄贈されている。ポンピドゥー・センターには、1959年に購入された素描が16点所蔵されているが、これらは1911年から1912年ごろ制作されたものである。1984年には1912年から1918年のあいだに制作された9点の素描が購入されている。加えて1980年代には、アレクシナ・デュシャンにより多くの作品が寄贈された。そこには1904年から1914年まで使用された素描帖1冊と、1916年から1918年まで使用された素描帖1冊、さらに、主題ごとに12のグループに分類された小規模の素描が、合計300枚所蔵されている。この12のグループは1909年から1918年のものであり、各グループはほぼ同年代に制作されている。また同美術館内に併設されているカンディンスキー図書館のアーカイヴに収蔵された書簡のなかには素描が施されたものが19点存在した。フィラデルフィア美術館には、1910年から1918年ごろ用いられた1冊の素描帖が、1987年にアレクシナ・デュシャンによって寄贈されている。

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