― 127 ―職人はたくさんいるが、芸術家はほとんどいない。芸術家は〈神〉からインスピレーションを得るものだ。職人は物質のうちに没頭する─つまり物質にインスピレーションを受けるのだ。(注22)5.結論本稿ではデュシャン=ヴィヨンの作品のなかでも、キュビスム的実験が開始される時期において身体表象から抽象的な表現がいかに生じたのかを、素描におけるイメージの変容を辿りながら検討した。そのなかで、解剖学的なイメージが記号的身体像や幾何学的身体像へと展開すると同時に、物語的な要素よりも身体像そのものの幾何学的な造形性へと関心が移行したことを新たに示した。《メゾン・キュビスト》のレリーフの習作に認められた人間と天体の象徴的モチーフもまた、幾何学化と物語性の消滅という当時の彼の関心のなかで、最終的に抽象的な形態をとることになる。しかし解剖学や比率という人間の培ってきた科学的知識から発しながらも、抽象的形態、彼の言葉を借りれば「漠然とした、定義され得ない形態」へと徐々に到達するこの一連の軌跡は、まさに彫刻家が「〈神〉からインスピレーションを得る」芸術家たらんとしていたことの表れであるといえる。このような神秘主義思想と科学的知識の結びつきこそが、デュシャン=ヴィヨン独自のキュビスムの形成において重要な役割を果たしていたものであり、また、彼が《メゾン・キュビスト》のファサードを構想するなかで、ゴシック建築の精神と現代性とを関連させる楔となっていたといえるだろう。注⑴Marie Pessiot, Michelle Debat, Duchamp-Villon, dessinateur et photographe, Rouen, Musée des Beaux-Arts, 1999.⑵Marie-Noëlle Pradel, Raymond Duchamp-Villon, 1876-1918, la vie et lʼœuvre, Thèse inédite, Paris,Ecole du Louvre, 1960; George Heard Hamilton and William C. Agee, Raymond Duchamp-Villon, 1876-1818, cat. exp., New York, Walker and Company, 1967; Duchamp-Villon: Collections du Centre GeorgesPompidou, Musée national d’art moderne et du Musée des beaux-arts de Rouen, cat. exp., Paris, CentreGeorges Pompidou, 1998.⑶この素描のほかに、1912年の《メゾン・キュビスト》の素描にも同様の猫のモノグラムが登場する(Mnam, Bibliothèque Kandinsky, Fonds RDV, 7783.64V)。それ以前の素描にはこのモノグラムは認められないことを勘案すれば、屈む女性像からモノグラムへの変容を描いたこの素描もまた1912年頃の制作と考えられる。⑷他に以下のものが挙げられる。MbR, D.998.1.77, D.998.1.21r-v, D.998.1.23, D.998.1.75r, D.998.1.78r;Mnam, AM.2041.D, AM.2251.Dv, AM.2042.D, AM.2047.Dr.⑸他に以下のものが挙げられる。MbR, D.998.1.67r, D.998.1.69, 998.1.71v, D.998.1.80; Mnam, AM.2043.
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