― 170 ―また、色の明度に関しては若干の違いがあるように感じられることと、宗達本の墨線は薄いが、光琳本はもう少し濃い墨色で描いているという違いがある。山根氏は第2、3巻に弟子の手が入っていると指摘しているが、第2巻第26紙の笙の岩谷に籠る場面では、西行は丁寧に描かれているが、西行が籠っている周りの岩の塗り方に斑があり、そこなどは弟子が塗っている可能性がある。さらに調査では、配色や描き方、光琳の模写姿勢等を探るために、金泥や銀泥を同じところに使用しているか確認した。宗達本で金泥が塗られていた所は、御簾、義清(西行)が襲装束を賜る場面の待賢門院の背景、仏具や仏、甲冑などの武具の一部、着物の模様、琴の弦、蒔絵の模様、牛車の模様、襖の把手、屏風の内側の模様、梅の木の一部などであった。また、武具の金具、貴族の着物や帷の模様、着物の一部、頭巾、月などには銀泥がぬられており、光琳本にも同じように金泥と銀泥が塗られていた。その上、第1巻の西行が乗る馬の飾りの房の一本一本の精緻な描きこみ、御簾の緻密に描く金泥の線、一部(待賢門院)を除く着物の柄、老婆の黒髪に交る白髪(第4巻第13紙)、墨を塗った上に緑色を塗るなどの木や草の塗り方や、墨と緑や茶色といった2色や3色で描く水草、山の土や地面の薄く塗る所や濃く塗る所、黒牛の墨の濃淡やたらし込む所、襖などの画中画のたらし込み、金泥を加えた武具や甲冑や細かな文様等々細部の細部まで一致している。非常に丁寧に写し取られていて、宗達本をよく見て描いているといえる。旧毛利家本は馬や牛、着物、襖の縁の色等が違っていたが、そういった配色の改変はみられなかった。女性の口の描き直し(第1巻34紙)や、一部の硬い描線、斑のある色の塗り方も見られたが、全体的にみて伸びやかに筆を走らせていると感じられた。さらに、光琳本の裏打紙には蝶や松葉が装飾されていて、それらが所々表の絵に透けてみえており〔図10〕、本紙が薄く、敷き写しが可能であったことを示していると考えられる。「風神雷神図屏風」は構図も配色も描線も大きく改変していたが、本品は配色も変えず写し忘れもほとんどなく、実物を非常によく見て同じように描いている。また、前章の重ね図でみたように、全体がほとんど一致する所もあるし、特に人物の頭、手足、衣文線までもがここまで一致することから、宗達本を敷き写した可能性が高いと指摘できると思う。結論現時点で出来ることはここまでであったが、今回光琳本の模写について次の四点を
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