tsuto
187/639

― 177 ―の手がけた煎茶器は、中国渡来の道具に忠実に倣おうとしたものから、日本の抹茶で用いられていた、中国や朝鮮半島、東南アジアのやきものの特徴をとりいれてアレンジしたものまで、実に幅広い。何らかの異国的な雰囲気を器にまとわせようとしていたのであるが、そのなかで、『方氏墨譜』を典拠とする、もしくはその可能性が高い作品を一覧にしたのが〔表1〕である。このうち最近新たに判明した3例を以下に紹介する。【1】仁阿弥道八 白泥龍波濤図涼炉 個人蔵 〔図1〕・〔表1No.7〕 寸法(cm) 高さ:15.5 口径:11.6 底径:10.1煎茶席で湯を沸かすための火をおこす炉である。円筒形の胴部側面に設けられた円形の枠内に、逆巻く波濤から飛翔する龍の猛々しい姿が彫られている。白土が塗られた表面を丁寧かつ微細に線刻し、目に鉄の顔料を点じて瞳を入れる。これは『方氏墨譜』巻二・一丁裏に掲載される、円形の墨の片面の図様〔図2〕を忠実に引用している。仁阿弥および周平作の涼炉〔表1No.1・13〕には、図の反対側の面に開けられた、炉にくべた炭の火力を上げるべく風を送るための、「風門」と呼ばれる穴の直上に、墨譜に記された名称を字体まで倣って彫るものもあるが、この作例では「乾之同人」という名称は彫られず図様のみ引用している。なお、底裏には「道八」瓢形印が捺され、仁阿弥自身が自署した共箱の蓋表には、「風爐/道八(黒文瓢形印「道八」)」(/は改行を示す。以下同じ)の墨書と捺印がある。【2】仁阿弥道八 色絵冨貴春図急須 個人蔵 〔図3〕・〔表1No.8〕 寸法(cm) 総高:10.0 口径:5.3 胴径:9.2 底径:4.8 最大幅:12.6牡丹を中心に薔薇・桃・紫陽花・木蓮・梔子(くちなし)・蘭を、カラフルな色絵具を用いて細密に描き込んでいる。黄緑やピンクなどの中間色は、清時代の粉彩磁器を意識したものである(注8)。注口と把手の間には、かなり剥落しているが、金彩で「冨貴春」の文字が記されている。この図様と名称も、同じく『方氏墨譜』巻二・三九丁の表・裏〔図4〕に、その典拠を求めることができる。ただし、元になった図様と比較してみると、縦長の構図を球形で横長の胴部に適合させるために、花瓶を省略して上下をやや縮めるものの、構図や花各々の枝振りは、ほぼそのまま活かしていることが分かる。

元のページ  ../index.html#187

このブックを見る