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― 204 ―る、2匹の猿に支えられた時計はパリのエティエンヌ・ルノワールの作である(注15)(翻訳筆者)。」この記述が現在「鏡の間」にある象の特徴と共通することにより、1769年におけるこの象の所在が明らかとなった。「鏡の間」はフランス建築界の巨匠フランソワ・キュヴィリエ(François Cuvilliés, 1695-1768)によって1731年~1737年に製作された。多数の巨大な鏡を張った室内において、壁面、鏡や調度の縁がロカイユ装飾や曲線的なアカンサスなどの植物文様のレリーフで覆い尽くされ、いたるところにフランス・ロココ様式の特徴をみることができる(注16)。象が置かれた小机風コンソール・テーブル〔図5〕、壁面、鏡の縁飾りなどの周囲全体にロカイユや植物文様の曲線が繁茂し、乳白手の象を輝かせるオルモル台の植物レリーフや猿の身体の曲線まで有機的につらなっている。室内ではすべての装飾が豊かな黄金色に輝き、羽目板の地色の白を際立たせる。白い象の色もこれらの色彩構成の一翼を成すかのようである。17世紀後期の日本で生まれた象の造形は、ロココ様式のオルモルで包みこむことによって、フランス宮廷の室内と融合的な関係を結ぶのであった。3-2) ルイ15世より王妃マリー・レクザンスカへ贈答された「必需品」茶器一式〔図6〕茶やチョコレートに用いる磁器や銀製の茶器を木箱におさめた「必需品nécessaire」と呼ばれる茶器のセット(ルーヴル美術館蔵)。それは1729年に生まれた王太子の誕生を祝い、フランス王ルイ15世(Louis XV, 1710-1774)が王妃マリー・レクザンスカ(Mary Leczinska, 1703-1768)へ贈った祝いの品である。銀細工はチョコレートポット、茶葉容れ、茶漉し、クリーム入れ、砂糖サーバー、スプーン、燭台などから成り、すべて金鍍金がほどこされている。その多くに金銀細工師アンリ=ニコラ・クジネ(Henry-Nicolas Cousinet, ?-1768)の刻印が捺されている(注17)。銀器にも金鍍金が施され、随所に配された王太子を象徴するイルカの彫刻、波や貝殻といった海を表すモティーフは典型的なロココ意匠である。磁器は、柿右衛門様式のティーポットと蓋付鉢の砂糖容れは有田製、白磁のカップ&ソーサーは徳化窯製、唐子を描いた柿右衛門様式写しのカップ&ソーサーはマイセン製と様々な産地のものが取りあわせられ、木箱の内側にはビロードが張られている。前述の有田産柿右衛門様式磁器に注目しよう。金属部分はいずれも銀製で金鍍金が施されている。ティーポットは胴に草花文、蓋に花唐草文が描かれ、把手上方に金属の留め金、注口先端にイルカの頭部を象った銀製の彫刻が装着されている。把手の留

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