― 213 ―⑳ 近世菓子木型の研究─総本家駿河屋の資料を中心に─研 究 者: 岡山市立中央図書館 学芸副専門監 飯 島 章 仁 岡山空襲展示室 学芸員 猪 原 千 恵1 はじめに落雁や金華糖など、和菓子には菓子木型を用いて制作するものがある(注1、以降木型とする)。菓子を作るための型の使用は世界各地にあるが、桜等の硬質な木材に精巧な彫刻を沈み彫り(逆彫り)する木型は、近世の日本社会で和菓子の発達と歩調をあわせて高度な発達を遂げてきた。とりわけ砂糖がまだ貴重で、これを使用した菓子を上層階級の人々しか享受できなかった時代には、菓子のあり方は、現代の大量消費社会におけるそれとは大きく異なっていたと考えられる。近世においては、菓子はしばしば社交や儀礼の中で特別な役割を与えられ、それだけに大いに美術的創意が凝らされ、大切に賞味された。したがってそれは、日本文化の多様な領域と深く結びついている。筆者らはこれまでに、岡山市在住の木型職人、田中武行氏、田中一史氏への聴き取りと制作道具の実測調査を行い、岡山県内の木型の所蔵先の調査を経て、2011年にはそれらの成果を集大成して岡山市デジタルミュージアムで企画展「菓子木型―和のかたち―」を開催した。この展覧会ではおもに岡山県内各地の木型を出品したが、近世に遡る古い木型を県内に見いだせなかったため、紀州藩の御用を代々勤め、多数の近世の木型と関連資料を所蔵している株式会社総本家駿河屋に協力を仰ぎ、紀州藩由来の木型や菓子の見本帳である「絵手本」(注2)等の貴重な資料の出品をいただいた。本研究では、このとき得られた知見をさらに深めるべく株式会社総本家駿河屋が所蔵する近世菓子木型の本格調査を予定していたが、2014年5月の同社の事業停止により突如調査が不可能になり、内容の変更を余儀なくされた(注3)。そこで、木型の分野における重要な包括的著述である徳力彦之助の著書(徳力1967、1975)に収載の各地所蔵先の資料を手がかりに、近世菓子木型の多数の事例を実地調査することとし、総本家駿河屋の資料を広い脈絡の中へ位置づけて、比較検討の上に立ちながら近世菓子木型の特質を把握する方針に転換した。調査方法としては、近代の資料も含めてひとつの所蔵先がもつ資料を一群のものと捉えて、その全体像がわかるようにまずは可能な限り多くの木型の実見させていただき、次いで基本的な計測と写真撮影、および観察を行った。木型の所蔵先のみならず、文献資料の閲覧
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