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― 13 ―②中世の腰刀に関する形式的展開とその考察研 究 者:東京国立博物館 研究員  酒 井 元 樹腰刀とは中世に用いられた短刀・脇指の刀身(注1)を収める刀剣の外装で、太刀など長寸の刀剣の指添として腰に指す。鐔のない合口造を基本とし、鞘の両面に櫃と呼ばれる空洞を設け、指表に笄、指裏に小柄を収める。腰刀の形式的変遷は、小笠原信夫氏、岡田賢治氏らによる考察があり(注2)、近世において広く用いられた、大小と呼ばれる打刀と脇指の長短一組の刀装のうち、小刀である脇指との関係も指摘されている。だが、先学の論考は腰刀の事例紹介に留まり、伝世品、出土品、有識故実、絵画史、染織史などからの総合的な検討には考察の余地を残している。そこで、本報告では、現存作例を挙げつつ諸分野との相互関係を指摘し、その様相について考察したい。なお、刀装や笄の各部名称は〔図1、2〕にまとめた。Ⅰ.鎌倉時代この時期の腰刀は、伝世品がほとんどないため、出土品や絵画作品を中心に考察せざるを得ない。出土品では、三重・雲くも出で島しま貫ぬき遺跡、京都・佐山遺跡から出土した腰刀がある。前者は木棺墓の副葬品で12世紀末期から13世紀前期の遺品とされる(注3)。全長40.8センチで、全体を黒漆で塗り、3本一組の条線が一定間隔にあり、柄と鞘の固定形式は、柄の縁を凸形に、鞘口を凹形に作る「呑口式」である〔図3〕。表裏に櫃があり、栗形は小さく返角はない。一方、後者〔図4−1〕は11世紀後半から13世紀中頃の遺物と考えられ(注4)、全長43.4センチ、呑口式、黒漆塗で、等間隔に2条一組の糸を巻く。栗形は半円形の板状で一組の小孔がある異風な形状(注5)で返角はない。指裏のみに櫃があり、空洞の形状から全長19.6センチの笄を収めていたとされる。両者は、寸法、柄と鞘の固定形式、加飾の面で共通し、類似した腰刀が「平治物語絵 三条殿夜討巻」(鎌倉時代(13世紀)、ボストン美術館)〔図6〕にみられ、広島・安国寺の阿弥陀三尊立像(文永11年(1274))納入品には呑口式の柄がある。また、神奈川・佐助ヶ谷遺跡、広島・草戸千軒町遺跡のうち、13世紀後半から14世紀前半にかけての遺物には、後述する合口式の腰刀の鞘や柄がみられるものの、呑口式の腰刀の部品も多く出土している(注6)。これらの出土品の腰刀は無櫃の鞘が大半であるが、櫃内部の寸法が分かる佐山遺跡の腰刀に注目すると、この櫃に収納できる寸法の鹿角製の笄が鎌倉時代の各地の遺跡で数多く出土しており興味深い。これら出土された笄には一

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