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― 250 ―㉓ 「華厳宗祖師絵伝」義湘絵における祖師像制作について研 究 者:東北大学大学院 文学研究科 博士課程後期  伊 藤 久 美はじめに 問題の所在京都・高山寺に所蔵される国宝「華厳宗祖師絵伝」は、鎌倉時代を代表する絵巻作品として名高い。この絵巻は、新羅の華厳僧である義湘(625~702)と元暁(617~686)の事蹟を各々描いた義湘絵、元暁絵を併せて今日に伝わるが、両絵巻間に認められる画風の差異などから、本来、義湘絵が先に成立し、あとから元暁絵が加えられたと考えられている。しかし、かねて指摘されるように、両絵巻とも、明恵上人高弁(1173~1232)がその制作に関与している可能性が極めて高い。明恵は華厳と真言密教を修学し、のちに後鳥羽上皇から下賜された高山寺の地を華厳宗の道場として復興させた。同寺では明恵在世時よりその御影制作が手掛けられた。国宝「明恵上人樹上坐禅像」(以下、樹上坐禅像)はその一例と考えられる。しばしば論じられるように、義湘絵中の義湘、元暁絵中の元暁にはそれぞれ明恵の姿が重ね合されているとされる。義湘絵は、明恵没後の作とされることもある元暁絵と異なり、一般に明恵在世中の作とみなされている。そうであれば、描かれる義湘の図様は、樹上坐禅像をはじめとする同時期の御影制作とも無関係ではなかったはずである。しかしながら、従来、義湘像に焦点を当てた考察は十分とは言い難く、御影制作との関連性も必ずしも明らかではない。本研究は義湘像から読み取れるイメージを精査することにより、明恵像制作の中で本絵巻を捉え直し、高山寺における師のイメージ形成の一端を明らかにするものである。1.華厳祖師像はじめに、義湘絵に描かれる義湘像の特徴を改めて確認したい。義湘はその登場場面の多くで、白払を持ち、やや黄味がかった衣に黒い行の袈裟を着す姿で描かれる〔図1〕。また、容貌は比較的若い。これらの点が、幾人かの僧が登場する画面のなかで、義湘を指し示す特徴となっている。このように特徴づけられる図像を、まずは現存する他の義湘像と比較しよう。管見の限り、中世時代に遡る義湘像として唯一現存が確認されるのは、高山寺所蔵の室町時代の作のものである〔図2〕。本図は、東大寺戒壇院に伝来した華厳五祖像三幅中の第四祖澄観像と像容が同じであることが指摘されている(注1)。また、同じく室

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