― 251 ―町時代の作の高山寺所蔵元暁像は、東大寺戒壇院伝来の華厳五祖像のうち第二祖智儼像と図様が一致するほか、大阪・久米田寺所蔵の第四祖澄観像とも同じくすることが知られる。こうしたことから、もとは複数幅から成った華厳祖師像が、伝来の過程で散逸し、あるいは像主が変更された可能性も考えられるだろう。そう見るなら、本図は当初、澄観像であったとも、他の杜順、智儼、法蔵、宗密ら中国の伝統的な華厳五祖のうちの一人として描かれたとも推察される。本図が義湘に当てられたのは、払子を持ち、若めの相貌が、義湘絵の影響のもとに、義湘像にふさわしいと見なされたためではないか。もしくは、室町時代に、他に伝わる華厳五祖像のなかから義湘絵中の義湘図様にもっとも近しいものを写し取り、義湘像として奉じたと想定することも可能である。なお、義湘は入唐し、智儼より教えを受けたため、義湘絵中の義湘は先行する智儼図様を擬したとする見方もありうるが、現存する華厳祖師像において払子を持す図様の智儼像は見出されない。したがって、この払子を持ち、若々しいという義湘の特徴は、義湘それ自身の図様、ないしは師たる智儼の図様に基づくものとは見なしがたいのである。他方、海外に現存する義湘像としては、韓国の梵魚寺聖宝博物館本(朝鮮時代・1767年)〔図3〕、韓国国立中央博物館本(朝鮮時代・19世紀)、孤雲寺本(1935年)などがあるが、朝鮮時代を遡る作例は知られない。このうち梵魚寺聖宝博物館本は、払子の柄を右手に持し、左手で払子の毛を撫でるようなしぐさを描いており、高山寺本とやや近似性が認められるものの、それ以上の関連性は現時点で不詳である。以上のような状況から、既存の義湘像や華厳祖師像との比較を離れ、より広範なコンテクストのなかで義湘絵の義湘イメージの分析を試みていくこととする。2.義湘像の解釈(1)善知識としての義湘義湘絵の義湘イメージを読み解くにあたり、まずは先学の指摘を確認する。先述の通り、第一にそのイメージは明恵と重なるものであることが論じられている(注2)。両者とも美貌の人と伝えられ(注3)、女人から思慕された。また、本絵巻の僧侶の図様全般に羅漢図からの援用が論じられているが(注4)、義湘もまた羅漢のイメージをはらんでいる可能性があろう。さらに先ごろ、払子を手にする義湘の姿が東京国立博物館蔵の国宝・玄奘三蔵像などと似ていることから、そのイメージが玄奘とも重なるという指摘がなされた(注5)。
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