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― 270 ―2 三部作制作の経緯と特徴1978年、メトロポリタン・オペラの演出家であったジョン・デクスターは「フランス三部作」の企画を発案し、舞台美術担当として選ばれたホックニーは1980年を中心にデザイン習作を重ねたのち、1981年2月20日に初演を迎えた。フランスの作品である点は共通するものの、作曲家も台本作家も異なる三作品に一貫性を持たせるため、次のような工夫が成された。まず、デクスターは各作品が制作・上演された1917年前後が第一次世界大戦の渦中に当たることを踏まえ、戦禍の下でも生き延びる芸術の力および子供の想像力の庇護を共通テーマとし、音楽、美術、文学などの諸芸術が分かちがたく結びつき、観客が舞台との相互関係のうちに体験できる作品を構想した。上記の試みはまた、『ティレジアスの乳房』台本におけるアポリネールの言葉に着想を得ている(注3)。次に、各作品でコーラスの子供や大人が舞台装置の移動も担うこととし、その衣装は当時展覧会が催されていた18世紀の画家ドメニコ・ティエポロによるプルチネッラ(伝統的なイタリアのコメディア・デ・ラルテの道化師)の素描を参考にした(注4)。更に、演出家が『パラード』やアポリネールと関連の深いピカソの舞台美術を取り入れることも提案し、ホックニーはウォーカー・アート・センターおよびニューヨーク近代美術館(以下ウォーカー、MoMAとする)へ赴き、二つの大規模なピカソ展を熱心に鑑賞したという(注5)。なお、1980年当時の制作スタッフへのホックニーの指示書には「色彩 非常に重要下絵に忠実に」と明記され、各衣装の色が詳細に指定されている(注6)。彼が音楽を聴くと色が思い浮かぶと述べていることを受け、1981年9月、神経学者のシトーウィックはホックニーの共感覚(聴覚、味覚、視覚などの五感のうち二つが同時に働く知覚)を調べる実験を行った。様々なメロディや和音を聴いて多数の見本の中から相応しい色を選択する実験の結果、彼が特定のメロディに形や色、動きを感じ取っていることが確認された(注7)。3 各楽曲の構造分析─舞台美術における色彩の効果以上の特徴を踏まえ、三部作それぞれの演目について、まずホックニー自身が述べているあらすじ(注8)を要約し、楽曲および舞台美術を分析したのち、彼の共感覚の個別例やピカソ展等で実見したと思われる着想源を検討する。このことで、音楽と美術、そしてキュビスムの関係を明らかにしたい。分析にあたっては、下記の各機関にて閲覧した資料を用いる。デザイン習作:デイヴィッド・ホックニー・インク(ロ

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