tsuto
281/639

― 271 ―サンゼルス)、スコア(オーケストラの楽譜)と上演記録写真:メトロポリタン・オペラ・アーカイヴズ、初演時の記録音源:パフォーミング・アーツ図書館(ニューヨーク)、ピカソ展展示風景写真:ウォーカーおよびMoMAのアーカイヴ。3-1 『パラード』このバレエは本来コクトーの台本に基づくが、三部作では各演目の登場人物を紹介する機能をもつ。舞台には鉄条網やフランス国旗が置かれ、戦場に見立てられている。そこにガスマスクと軍服を纏った兵士たちが現れ、一人の少年に銃を渡そうとする。しかしアルルカンが少年を助け、銃の代わりにカップルを象った人形を渡す。上方から赤い舞台幕が降りると、玩具のアルファベットブロックを等身大に拡大した舞台装置を兵士たちが運び、作曲家「エリック・サティ」の名前を作る。すると、アルルカンに紹介されながら登場人物たちが現れ、踊り始める。このうち『パラード』の中国の奇術師やステージ・マネージャーなどの衣装は、ピカソのオリジナルデザインを直接引用している。以上のバレエが終わると、ブロックが「フランシス・プーランク」の名前を形作り、続いてのオペラ『ティレジアスの乳房』を予告する。サティによる本作の楽曲は特定の調を持たない無調性で、三部作の中で一番作曲年が早いものの、最も実験的といえる。冒頭部と終結部には比較的古典的な金管楽器のフレーズが用いられているものの、中盤にはタイプライターやサイレンなども楽器として使われ、脈絡のない和音の変動や変則的な拍子が見られる。こうした古典的・現代的要素を断片的に取り混ぜたような構造は、現在の音楽でいう所のブレイク・ビーツやカット・アンド・リミックスなどの幾何学的手法を連想させる。特にマニュエル・ローゼンタール指揮による初演時の録音では、トランペットの音程が上ずり、他の楽器もむらのあるテンポを刻むなど全体に敢えて調子を外し、壊れた時計のような機械的印象をもたらす(注9)。ホックニーは本作の美術デザインにおいて、フランス国旗のトリコロールを中心にとりどりの原色をちりばめて様々なアルルカンの衣装習作を試み、中でも菱形の網目模様を多数描いている(注10)。画家はシトーウィックとのインタビューの中で、ストラヴィンスキー作曲のオペラ『エディプス王』を聴いた印象について、「クロスハッチング(斜交平行線模様)を思わせる線や鋭利な形が見える」、「その音楽は水平・垂直なもので、とても幾何学的なのである」と語っている(注11)。同様に、画家は『パラード』の幾何学図形を組み合わせたような楽曲に、トリコロールと賑やかな原色、そして菱形の模様を連想したと考えられよう。トリコロールの菱柄を着たアルルカン

元のページ  ../index.html#281

このブックを見る