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― 274 ―得たことが窺える。第二幕で「夫」が子供を増やす場面は、スコアのト書きに新聞紙を糊づけしゆりかごの中に赤子を作り出す記述が見られ、歌詞には「ピカソ」の名前が登場する(注20)。スコアに「ゆりかご(berceau)」とあるにも拘らず小道具を乳母車〔図10〕にしたことは、ピカソのブロンズ彫刻《乳母車を押す女》(1950年)の影響を思わせるものの、三次元ではなく一枚板の平面的デザインとすることで、紙を糊で貼ったコラージュの印象を強めている(注21)。これらの類似から、本作はアポリネールによる台本の社会背景を重視した衣装を用いながらも、セットの空間を平面の重ね合せによって構成し色彩で効果を加える手法をピカソのキュビスムに学び、反戦的かつ滑稽な内容と軽妙な楽曲を効果的にまとめあげたといえる。3-3 『子供と魔法』ラヴェルによるオペラ第一幕のセット〔図11〕は梁のある天井と暖炉のある部屋で、コレットの台本に則り、当時のノルマンディーの農家を模している。冒頭の場面、母親に良い子でいるよう言いつけられ、部屋に残された「子供」はうんざりして暴れ始め、家具を傷めつけ、猫やリスをいじめる。すると、これらのものが喋り出して彼を責め立てる。その後、猫のカップルがアリアを歌い、「子供」を窓の外へ誘い出す。「子供」が庭〔図12〕に出ると第二幕が始まる。熱狂的な音楽が鳴り響き、彼は月明かりに満ちた雄大な庭の美しさに圧倒される。しかし庭の巨大な木は、「子供」にナイフを突き刺されたため、「お前は悪い子だ!」と怒る。そのうちに庭の生き物全員の怒りが噴出し、子供を一斉に追い掛け回すと、巻き込まれたリスがけがをしてしまう。「子供」がネッカチーフで前足を手当てすると、生き物たちが「彼はいい子、お利口な子」と歌い、助ける。幕が下りると、「子供」が「ママ!」と母親を呼ぶ声が聞こえ、ここで三部作は終結する。1980年の制作指示書の中でも、特に本作の衣装はキャラクターごとに帽子から靴下、手袋に至るまで事細かに色合いが決められている。素材についてもヴェルヴェットなどの指定があり、生地の種類による発色の違いにまで注意を払っていることが分かる。第二幕のセットの習作について、画家は子供が庭に出る冒頭場面の音楽を聴きながら描いたという。庭の木の形は彼が1978年にエジプトで撮った白黒写真に基づいているものの、幹と枝、葉むら、葉の中の斑点がそれぞれ、鮮烈な赤、青、緑で塗られている。更に画家は、セットの本来の色の上に赤もしくは青のカラー・ライトを適宜当

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