― 276 ―4 おわりに─色彩の多様なコラージュ本稿では「フランス三部作」の舞台美術の各作品において、トリコロールを幾何学的にちりばめた模様、キュビスムの歴史に接する平坦な色面の重なり、色彩の対比と相互浸透によって観者を包み込む空間性を明らかにしてきた。ここから、ホックニーがそれぞれ異なる手法を試みながら色彩を構成し、各楽曲の構造や歴史的背景、ピカソらの先行作品を深く理解した上でコラージュのように組み合わせ、三部作のテーマを効果的に彩っていることが確認できた。なお、1983年のホックニーの舞台美術回顧展では、「フランス三部作」のセットを新たに構成し直したインスタレーションが展示された。ここでも同様に、『パラード』の曲芸の梯子を斜行するトリコロールは、ピカソのオリジナルの幕と共に、ホックニーが用いた菱柄を思わせる。『ティレジアスの乳房』の展示は鮮やかな色彩を平面的に重ねて構成され、一つの展示室全体を使った『子供と魔法』のインスタレーションは、観者を赤、青、緑によって四方から包み込む空間的志向が窺える〔図13〕。最後に、造形上それぞれ異なる種類のキュビスムが試みられた三部作を貫く問題意識について指摘したい。これらはいかなる思想のもとに展開されたのだろうか。1984年4月、ホックニーは講演「60年代の重要な絵画」(グッゲンハイム美術館、ニューヨーク)においてピカソの絵画《朝鮮の虐殺》〔図14〕を採りあげ、これは画家が被害者である女性や子供の立場にたって描いたものであるとし、自分を被害者から切り離した立場で遠隔撮影する報道写真の残酷さと対比した(注27)。同作は1980年のMoMAおよびウォーカーのピカソ展でも展示されており、ホックニー版『パラード』のガスマスクを着けた機械のような兵士〔図15〕の着想源とも考えられる。すなわち、キュビスムに学んだ様々な造形的要素はホックニーの中で視覚と写真の問題につながり、更にそれは反戦および無垢な子供の庇護、芸術と鑑賞者の相互的関わりという三部作のテーマと分かちがたく結びついていたのである。従来の研究は、ホックニーの視覚論の契機を1982年以降の写真コラージュに位置づけてきた。しかしその重要な端緒は1980年前後、「フランス三部作」デザインにおいて時間と空間の芸術である舞台とキュビスムを追究した時期に求められるべきではないだろうか。注⑴Martin Friedman ed., Hockney Paints the Stage, Minneapolis: Walker Art Center, 1983; Cécile Gervais;Michèle Barbe, David Hockney décorateur: analyse des décors de L'Enfant et les Sortilèges, Paris:Université de Paris-Sorbonne, 2003; Muriel A. Cohen, Operatic Stage Designs of David Hockney,
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