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― 311 ―1.概要(1) 現状と図様まず、本図の基本情報と絵画表現を確認し、その特質を指摘するとともに絵画史上の位置付けを定めたい。本図は、2006年、日本個人のコレクションとして韓国・東国大学の博物館で開催された「建学百周年記念─国宝展」ではじめて一般公開され世間の関心を集めた。後に、2011年にはLeeum美術館で開催された「朝鮮画員大展」においてはじめて三星文化財団の所蔵品として出陳された(注3)。本図は、1枚の絹に彩色した掛軸で、縦85.7横56.0cmの本地を測る小振りな画幅で、全体に顔料の剥落がみられるが落ち着いた色調は制作当初のようすをよく伝えている。下方の区画には金泥による発願文が記され、成化13年丁酉(1477・成宗8年)、昭恵王后の娘で成宗の実姉にあたる明淑公主と、その夫の駙馬洪常が発願したことがわかる(注4)。画面中央には高い台座上に薬師如来が右足を上にして結跏趺坐し、下段向かって右には、三足烏をあらわす日輪を宝冠にいただく日光菩薩が胸前で合掌して侍立している。その対には、宝冠に月輪をあらわした月光菩薩がやや斜め向きに配され、左右に六体ずつ置かれた十二神将が周りを囲んでいる。上部には、天蓋を挟んで十方如来が五体ずつ左右の上空から雲に乗って飛来している。詳細をみると薬師如来は、高い台座のうえに右足を上にした結跏趺坐をし、右手は屈臂して胸前にあげ第一・三指を捻じ、左手は掌を上にして腹前に置き薬壺を乗せている。着衣法は、左肩に大衣と中衣を纏い右肩を露わにした偏袒右肩をしている。肉身部には金泥を塗り細い朱線で描き起こし、わずかに朱暈を刷いており、螺髪は緑青で塗り、肉髪珠は朱地に金泥で表している。頭光および身光は金泥で輪郭をとり、その内側を綠・朱・金泥で縁を取っている。大衣は朱地に金泥で唐草円紋が描かれており、大衣の裏は緑青を塗っている。薬師如来が坐す蓮華座は蓮弁を緑青で塗り、細い二重の金泥線によって丁寧に描き起こされている。薬師如来と日光菩薩、月光菩薩の間には前机が置かれており、そのうえに珊瑚のような奇物二つと香炉があり、香炉の前には香入が、それぞれ赤、緑系の色で表わされている。前机の足は菩薩の衣で判然としないが、後方の台座がのぞいており、そこには赤と金泥で装飾された布が掛けられ、やや立体感を欠いているが、珊瑚が置かれているように表現されている。後述するが、この前机に並べられた奇物の表現は、王室周辺で行われた法会の実際をある程度反映しているものと考えられる。

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