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― 360 ―コ・デ・ゴヤ(1746~1828)の版画集が既にフランスに流通しており、シャルル・ブラン(1813~82)が編集し1850年代半ばに頒布出版された『全流派画人伝』と共に「スペイン趣味」的作品のイメージソースとしてマネに用いられたと考えられている(注2)。マネによる「スペイン趣味」が表現された作品は、ベラスケス作品を主としたスペイン美術の模写、《闘牛士の衣装を着たヴィクトリーヌ・ムーラン》〔図4〕のようにアトリエでモデルを使い描いたスペインに関するテーマ、《ローラ・ド・ヴァランス》〔図5〕のようなスペイン舞踏団関係、ゴヤ《1808年5月3日、プリンシペ・ピオの丘での銃殺》に依拠した《皇帝マクシミリアンの処刑》のようなスペイン美術作品の援用という特徴により大別できる(注3)。《オランピア》は先述の特徴には該当しないが、白人女性が寝台に横臥するポーズはベラスケス《鏡を見るヴィーナス》〔図6〕、ゴヤ《裸のマハ》〔図7〕、マネの「スペイン趣味」的表現が顕著な《スペインの衣装を着て横たわる娘》との類似性が見受けられ、ベラスケス及び「スペイン趣味」の影響を受けた可能性は完全には否定できない。更に、黒人女性の表象に対し、オリエンタリズム絵画のみでなく、《エマオの晩餐とキッチンメイド》を更なる着想源の一つとして考察することにより、スペイン美術の影響という文脈からマネ芸術を再考察することが可能となると筆者は考えている。次章では、《エマオの晩餐とキッチンメイド》に対する検討を行い、《オランピア》における黒人女性の表象との共通点及び相違点を明示する。2.《エマオの晩餐とキッチンメイド》との比較《エマオの晩餐とキッチンメイド》は、ベラスケスにより1618年頃に制作された作品である。横長にフレーミングされた画面中央に黒人女性が配置されている。黒人女性は、頭に白いターバンのような被り物、紺色の上着、茶色のスカートを身に付け、画面前景の木製のテーブルに右手を付き、腰を曲げて屈み込んでいる。左手は机上の白地に模様が描かれた水差しの持ち手に触れ、画面左側に視線を向けている。机上には左側から真鍮製の鍋、両側に持ち手の付いた陶製の壺、白い布巾、焦げ茶色の台所道具、引っ繰り返され重なり合う三枚の陶製の皿、にんにく、真鍮製の擂りこぎと擂り鉢が並べられている。右側の壁面には、白い布の入った籠が掛けられている。女性の背後の壁面に映る影から、画面左側に光源があると推測される。画面左側の壁面に開いた窓から、新約聖書における「エマオの晩餐」の場面が覗いている。敷布が掛けられたテーブルを囲むイエス・キリストと二人の弟子が配置されているが、画面左端

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