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― 364 ―82)が1865年に制作した《最愛の人(花嫁)》〔図10〕においては、中央の白人女性を美的頂点とし、それを引き立てるかのように黒人を含む五人の侍女が周囲を取り囲んでいる。本作品においては、夫の前でヴェールを脱ぐ白人女性の抑制された官能性と、上半身の露出により明示された黒人少女の性的イメージが結び付けられている。《オランピア》における黒人女性の表象にも、作品の「性」というテーマを強調する機能が与えられている。更に、「同時代」の衣装を身に着けていることにより、「19世紀西欧の娼家で売買される性」をテーマとしていることがよりあからさまに表現されている。仮に、画面に裸体の白人女性のみが描かれていた場合、室内の様子から「娼家」という場面設定を読み取ることはできるが、「同時代の西欧」という要素が曖昧になる。「同時代の衣装を着た」非西欧人が傍らに存在することにより、場面設定が紛れもなく「19世紀の西欧」であることが明示されている。4.《スペインの衣装を着て横たわる娘》との比較《スペインの衣装を着て横たわる娘》は、闘牛士の衣装を着た白人女性が中心に配置された作品である。左右の縁が画面の両端に接するような巨大な赤い寝椅子に、背凭れにより上半身を起こし、左脚の上に右脚を重ねた状態で女性が横臥している。結い上げた髪に白い髪飾りを付けた女性は、黒と白の闘牛士の衣装を身に着け、足元には半分程開かれた扇が足首に重なるように置かれている。女性は顔を四分の三正面に向けているが、視線は鑑賞者と向かい合うのか、遠方に向けられているのか判然としない。右手は肘を曲げて頭頂部まで上げられ、薬指に指輪を付けた左手は肘掛に乗せられている。画面右側の寝椅子の傍には二個のオレンジが配置され、右端のオレンジには白黒斑の猫が戯れかかっている。背景は画面上部の四分の三が暗い焦げ茶であり、下部四分の一は光が当たったような白い色面となっている。横臥し腕を頭頂部に回したポーズは、ゴヤが1798~1803年に制作した《着衣のマハ》〔図11〕を想起させる(注10)。「スペイン趣味」を表出するモチーフとして「闘牛士の衣装」が際立つが、女性の足元の扇もゴヤ《日傘》や《バルコニーのマハ達》等にて女性の持ち物として頻繁に描かれている。また、猫は《オランピア》にも共通して登場する。しかし、サロンへの未発表作である為か、画家の同時代人からの批評及び評価、先行研究における本作品への言及は、「スペイン趣味的表現がなされた作品」という一文に留まり、構図が類似した《オランピア》との積極的な比較検討等は筆者の管見の及ぶ限りにおいてなされていない。本作品における《オランピア》との最たる相違点は、黒人女性の不在である。マネ

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