― 365 ―は、ゴヤ《裸のマハ》と《着衣のマハ》のペアに対するオマージュ(注11)として、《オランピア》と《スペインの衣装を着て横たわる娘》を構想したとされる。《オランピア》の前段階とも位置付けられる《スペインの衣装を着て横たわる娘》に黒人女性の表象は描かれていない理由として、マネがイメージソースの構図を忠実に踏襲した結果と推察される。本作品が女性の闘牛士の衣装により「スペイン趣味」を顕著に表現しているのに対し、《オランピア》では主要テーマは「同時代の売春」である。主に鑑賞者として想定される19世紀のフランス人にとって「異国」であるスペインをテーマとする場合、厳密な時代設定は重視されないが、《オランピア》では「同時代」であることを強調する必要性から同時代の衣装を着た黒人女性の表象を挿入したのではないだろうか。終わりにマネ《オランピア》とベラスケス《エマオの晩餐とキッチンメイド》を比較検討し、黒人女性の表象に付与された機能について考察した。《オランピア》における黒人女性の表象は、画家が生存した同時代の衣装を身に着けて表現されることにより、「性」という作品テーマ及び「同時代の西欧の娼家」という場面設定を強調する機能を有している。《スペインの衣装を着て横たわる娘》との比較においても、この見解は有効であると筆者は考える。マネは、主に複製版画によりベラスケス作品を中心としたスペイン美術をイメージソースとして取り入れた。今後は、現在明らかにされている『全流派画人伝』等以外にマネの着想源となったと考えられる版画集等の原資料について調査を行い、マネとスペイン美術の影響関係を更に詳細に考察する必要がある。注⑴バーバラ・スコット、石井美佐子訳「テロール男爵」『明治学院大学大学院文学研究科藝術學専攻紀要』(4)、2005年、101頁。⑵三浦篤「マネ《オランピア》─横たわる裸婦像の集約と解体」『ヴィーナス・メタモルフォーシス』三元社、2010年、179頁。⑶木下亮「エドゥワール・マネとスペイン趣味」『学苑』619号、昭和女子大学近代文化研究所、1991年、46頁。⑷Carr, Dawson W; Bray, Xavier, Velázquez, exhibition catalogue (London: National Gallery, 18 October2006-21 January 2007), London: National Gallery Company, 2006, p. 126.⑸ibid, p. 126.⑹関哲行「15~16世紀のスペインの都市社会と奴隷─アンダルシア都市セビーリャを中心に」『歴
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