― 381 ―㊱ 敦煌莫高窟第285窟の研究─石窟の構造と造営者を中心として─研 究 者:東北大学大学院 文学研究科 専門研究員 李 銀 廣はじめに敦煌莫高窟(北緯40.1°東経94.5°)は中国西北部のタクラマカン砂漠の東端に位置する(注1)。大泉河と呼ばれる川が浸食してできた鳴沙山の東側崖面に、高さ約40m、南北約2000mにわたって掘られた石窟群である(注2)。その中の第285窟北壁には西魏大統四年(538)、大統五年(539)の墨書題記があり、現存する莫高窟北朝時代の石窟で、具体的な年代を記載する石窟はこれただ一つである(注3)。第285窟の構造については、多くの先行研究では、中央に「方形の戒壇がある」点を証拠として、石窟の構造と各壁の造像などが解釈されてきた。しかしながら、ペリオ探検隊の記録写真によれば、当初の石窟中央には、現存の低い土壇ではなく、高い建造物の中央仏塔があったと見られる。なお、第285窟は元栄によって造営された石窟という説があったが、元栄造営とする証拠が足りないため、現在造営者の特定には至っておらず、造営者の階層については言及されてこなかった。本報告では、ペリオ探検隊の記録写真によって、第285窟の構造を考察し、石窟本来の様相を復元した上で、第285窟北壁の供養図における供養者の配列及び発願文を通じて、第285窟の造営者のうち、僧侶造像と俗人造像の関係を考察したい。一、第285窟の構造と造営者をめぐる諸問題と再検討(1)第285窟の構造について第285窟は前後式(前窟と主窟)であり、主窟は伏斗形の天井と下部の方形窟(幅6.4m、奥行5.9m、高さ4.3m)を組み合わせている〔図1〕。主室は西壁に仏龕三基を設けるほか、南北の両側壁に禅窟四つを開く。蕭黙氏により、精舎・僧院・住所を意味する毗訶羅式(ヴィハーラ)と呼ばれ、僧侶たちが坐禅をするための空間であり、小乗仏教の修行法である禅観が反映されていると指摘される(注4)。なお、第285窟中央には方形の土壇が現存している〔図2〕。この「中央方壇」を取りあげた多くの先行研究によって、石窟の造型や、宗教的機能、及び時代的、地域的な特徴などについてそれぞれ論じられてきた(注5)。近年は、「中央方壇」を研究対象にした論考もあり、「中央方壇」が仏教徒たちの受戒する機能を持つ「戒壇」と位置付けるもので、正壁の本尊と二脇侍を「三師」であると指摘している(注6)。以
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