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― 384 ―精舎・僧院・住所を意味し、僧侶たちが坐禅をするための空間であり、小乗仏教の修行法である禅観が反映されている(注22)。ヴィハーラ石窟の最も簡単な形式は、一人用の一辺2mほどの小さな四角い石窟である。房室の大きさは大小いろいろあるが、基本的にこの構造が定着している(注23)。一方、莫高窟第285窟に掘られた八つの房室は、1m四方ほどで立ち上がることができない高さであり、そこで生活のできる規模ではない。さらに、房室にはヴィハーラ石窟のように寝台を作り出すものでもなく、もっぱら座禅のための場所であったと考えられる。(3)伏斗形の天井について天井は伏斗形とよばれる藻井で、その最上部に蓮華が描かれている。藻井というのは、中国古代建築史における装飾の一種で、「反植河渠」とも呼ばれる。古代の建築は木造であるため、燃えやすい木造の建築に対して、火事は古代の人々の煩い種であった。藻(水草)井は「反植河渠」(河底をさかさまにして置いた形)の形で、火事の予防を願って表現された(注24)。なお、第285窟の主窟の形を見ると、中国にある墓の形が連想されやすい。例えば、敦煌の近くの酒泉市には「丁家閘五号壁画墓」という墓がある。魏晋十六国に造営されたため、「酒泉魏晋十六国墓」とも呼ばれる。その墓は第285窟の主窟の形とも、中の壁画内容とも類似点が少なくない〔図4〕。また、第285窟の主窟の形は、伏斗形の蓋を持つ舎利容器によく見られる。舎利容器は、仏陀の墓としてその遺骨を納めるものである。舎利容器の形はいくつの例があるが、代表的な形として伏斗形の蓋を持つものがある。そして、墓葬美術としての墓誌と蓋は、その大きさとも形とも舎利容器と類似している〔図5〕。墓と舎利容器と墓誌は、いずれも主人公の未来世界への願いを負担している。そのことを踏まえるならば、莫高窟第285窟の天井を伏斗形に作ることで、仏教の輪廻転生の思想を表しているではないだろうか。三、北壁における第285窟の造営者について第285窟北壁の七面の供養者図が描かれている〔図6〕。供養図下部には多くの供養者画像があらわれ、その画像の側に各自の名前が書かれている。

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