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― 392 ―㊲ 耳の造形に見る仏師快慶・行快工房─耳の近似と相違が語るもの─研 究 者:大津市歴史博物館 学芸員  寺 島 典 人本研究では、我が国の仏師のなかでも最も作例が多く残っている「快慶(工房)」(注1)によって造像された像に焦点を当て、仏師が思わず無意識に癖を出すことが多いという「耳」の形を比較することによって、その工房内の造像の様子を垣間見ようとするものである(注2)。銘記などによって「快慶作」とされる像は現在38件確認されているが(注3)、さらに無記銘ながら作風や構造が記銘像と近似し、快慶(工房)が造像を行った可能性があると思われる像が、報告者が確認しているだけでも80件以上ある。今回は銘記のある像の耳を分類してその表れ方を見ることで快慶作品のなかでの作風の近似と相違を確認し、そのことで無記名像をより積極的に快慶の作とすることが可能であるのかを探ってみたい。快慶銘のある像の耳を通観すると、大きく分けて3種類(Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ)の形がみとめられる(注4)。1.スタンダートの「快慶の耳Ⅰ」快慶の作例によく見られる耳は、諸先学の指摘の通り、耳輪のほぼ中央で対耳輪の下脚が前方を向き、上脚は若干の差違があるが斜め上方、大方45度前後を向くものである〔写真①〕。そして、下脚は耳輪の巻き込みにほぼ近接し、一方の上脚は耳輪の中でややゆとりをもって(耳輪と適切な距離がある)斜めを向いているものが多い。現存する快慶38件のうち、両耳もしくは片耳がこの形の像は33件あり、圧倒的にこの耳が多いことは明らかである。多少の差異はあれ、これが快慶(工房)の主流の形といえよう。2.慶派に通例の「快慶の耳Ⅲ」次に、対耳輪における上脚と下脚の向く方向がともに前方を向くものがある〔写真②〕。実はこの対耳輪のかたちは、鎌倉時代の耳の形としてはむしろ主流のもので、例えば康慶作の静岡・瑞林寺の地蔵菩薩坐像の耳は、上脚と下脚の分節が不明瞭なまま途中で大きく開き、ともに前方を向いている。孫の湛慶作である京都・妙法院(三十三間堂)の本尊、千手観音坐像の右耳も近いものをもっており、慶派通有の耳の一つと言えるであろう。運慶の耳も、上脚がやや上気味ではあるがやはり方向性と

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