tsuto
436/639

― 426 ―㊵ 『後素集』と舶載された絵入り版本との関係に関する研究─『列仙全伝』『仙仏奇踪』を中心に─研 究 者:インディペンデント・スカラー  北 野 良 枝はじめに元和9年(1623)に狩野派の絵師狩野一渓が完成させた『後素集』3巻は、31の部門を立て、1000件近くの漢画系の画題をあげて、図様の説明を付した画題解説の書である。本書は、絵師が編纂した書物であることから、当時の絵師の画題に関する知識を伝える史料と見做され、絵画作品の画題の確定や画題の内容の確認などにしばしば利用されてきた。しかしながら、その記述内容を詳細に検討すると、現存する絵画作例の図様と齟齬する記述や絵画作例との関係だけでは理解しえない記述が少なからず見出され、『後素集』を作品研究に利用する際に、利用者をしばしば戸惑わせてきた。筆者は、『後素集』の中に解説文の出典と見られる書名がわずかながら見出されることから、『後素集』の解説と絵画作品の図様との齟齬は、『後素集』が編纂の過程において、絵画だけでなく書物から情報を得たためではないかと考えている。そこで本研究では、『後素集』編纂時に参照された可能性のある書物のうち、近世初期に中国から日本に将来され、日本の絵師たちが作品を制作する際のイメージソースとして使用したことが指摘されている絵入り版本と、『後素集』との関係を検討することとした。文字と図が併載されている絵入り版本は、『後素集』の書物利用の問題を考える際に最初に検討すべきジャンルの書物であり、また国文学研究者の小助川元太氏により、『後素集』の編纂に絵入り版本『帝鑑図説』が利用されたとの指摘がある(注1)ことから、同時期に舶載された他の絵入り版本についても検討する必要があると考えたためである。具体的な方法としては、『後素集』の中で、収載されている画題数の多い仙人関係の画題、すなわち巻2所収の「神仙」「神僧」「仙女」部の画題と、仙人の伝記と図を収載する『有象列仙全伝』(以下、『列仙全伝』と略記する)および『仙仏奇踪』とを比較することによって、『後素集』と絵入り版本との関係を考察する。この作業により、『後素集』の編纂状況の一端を解明し、『後素集』という書物の特質や利用する際に注意すべき点を明らかすることができると考える。

元のページ  ../index.html#436

このブックを見る