― 437 ―㊶ アルベルト・ジャコメッティ旧蔵 日本関連資料の分析的研究研 究 者:成城大学大学院 文学研究科 博士後期 岡 村 嘉 子はじめにアルベルト・ジャコメッティ(Alberto Giacometti 1901-1966)が所蔵した日本関連資料は、妻アネット・ジャコメッティに遺された後、芸術家の生前に設立されたスイス・チューリッヒのアルベルト・ジャコメッティ財団へは移管されずに、パリのアルベルト&アネット・ジャコメッティ協会に保管されることとなった。協会はアネット夫人の死後、アルベルト&アネット・ジャコメッティ財団となり、資料は散逸されることなくそこに所蔵された。その内容は、1点の仏像と30点の書籍である(詳細は巻末表参照)。加えてそれらの入手経緯を裏付ける書簡等もまた同財団に収められている(注1)。それらを分析的に調査することは、ジャコメッティが日本芸術について持っていた知識や考えの一部を明らかにするものであり、それは今後、ジャコメッティ作品における日本芸術の影響を考える上で大きな手掛かりになるものと思われる。ここでは本調査の成果を報告していきたい。一 仏像ジャコメッティは木造の仏像頭部を所有していた〔図1〕。像が収められた箱の蓋には「宇治平等院鳳凰堂 雲中菩薩奏楽像御頭 国宝(写) 藤原時代」の記載がある。オリジナルは1053年(天喜元年)に創建された宇治・平等院、鳳凰堂母屋内側において、国宝・本尊阿弥陀如来像を取り囲むように長押し上に掛けられた、国宝・雲中供養菩薩像、全52躯のうちのひとつである。作者は定朝とその工房で、顔貌、髻や天冠台の意匠から推察するに、ジャコメッティ旧蔵の仏像は、そのうち北18号(木造、彩色、截金 高さ57.6cm 1053年(天喜元年)〔図2〕の頭部部分の摸刻と考えられる。全身像であるオリジナルは、左手に小鼓に似た楽器を持ち、右手でそれを今まさに打たんとする構えをしており、頭部もその動きに合わせて、やや右に傾けている。一方、頭部のみであるジャコメッティ旧蔵の摸刻では、正面を向いている。だが、一突き打たれる度に、場が清められていく、澄んだ音たちの響きのあわいに身を任せたときの、微かに微笑むかのような穏やかな表情は、オリジナルを見事に再現しているといえる。また顔貌だけでなく、彫りの技法や特徴、及び細部に及ぶリアリティのある表現においても、財団所蔵の本頭部像は、オリジナル同様に、実に精緻に作られている。だがオリジナルは前述の通り、長押し上という非常に高い場所に設置されてお
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