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― 470 ―㊹ フェルナン・クノップフ作品における「宿命の女」─文学との関わりから─研 究 者:九州大学大学院 人文科学府 博士後期課程  矢 追 愛 弓はじめに世紀末ベルギーを代表する画家フェルナン・クノップフ(1858-1921)の作品は、その多くが文学作品と密接に関わっている。代表作のひとつ《私は私自身の上に扉を閉ざす》(1891)〔図1:CR 174〕(以下、《私》)も、イギリスの女流詩人クリスティーナ・ロセッティ(1830-1894)の詩「誰が私を救うべき」(1864)に基づいて制作された。しかしながら、先行研究ではクノップフのこの詩への共感が指摘されるに留まり、作品解釈においてはむしろエドガー・アラン・ポー(1809-1849)の「大鴉」(1845)を重視する研究者もいる(注1)。よって本稿では、「誰が私を救うべき」の内容に立ち帰り、クノップフが詩の内容をいかに画面に反映させているか、主にそのモチーフの描写から検討していく。1.作品概観まず作品を概観しておきたい。横長の画面に、室内で頬杖をつく赤毛の女性が描かれている。黄色がかった瞳に黒い瞳孔という特徴がネコ科の獣のようであり、その視線は幾分挑発的である。灰色の衣服をまとい、左腕は手首まで覆われ、左手の甲の辺りに金色の薄地のリボンをまいている。左手薬指には指輪をはめている。右腕は肘の辺りまで袖をまくり上げ、その端に、植物の葉を2枚組み合わせたような白い飾りをつけている。画面下部を占める黒い布がかけられた台は、布で覆われていない左端の部分に板の切れ目が確認できる。前景には3本の百合科の植物が並び、花弁は全てくすんだ濃い橙色で、模様はない。画面中央前景には、銀色の鎖で金のオーナメントが吊されている。背景に移ると、画面左側は様々な木材が組み合わさった壁面で、最上部には、左右対称の形状の百合が描かれた黄土色の長方形の板と丸い鏡が2枚、飾られている。女性の背後の壁面には、青い翼の生えたギリシア神話の神ヒュプノスの頭部像が置かれている。右側には赤いケシの花が添えられている。ヒュプノス像の左側には出入り口らしき開口部があり、黒い布が巻き上げられ金具で留めてある。画面右側上部は、上から金具で留められた黒い布、室外の風景、暗い壁面に分かれている。風景は町の通りのようであり、建物に沿って樹木が数本植わっている。黒いマントで全身を覆った

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