tsuto
491/639

― 481 ―㊺ 15-17世紀朝鮮螺鈿漆器編年および日本製螺鈿器との並行関係検討研 究 者:東京文化財研究所 広領域研究室長  小 林 公 治はじめに 研究の経緯と問題の所在唐代を直接的な始原として近現代まで継続する東アジアの螺鈿は、中国大陸、朝鮮半島、そして日本列島においてそれぞれ発展を遂げた。とは言え、これらの螺鈿はそれぞれが個別独自に展開したのではなく、その始まりのみならず、各時代においても様々な相互影響関係を伴って造られたことが、近年認識されるようになっている。しかしながら、これまでの主な研究は地域ごとに進められており、各地間の相互関係、また時期的並行関係について言及されることは多くなかった(注1)。本研究は、16世紀から17世紀にかけて、日本の螺鈿に大きな影響を与えたと思われる朝鮮半島の螺鈿漆器についてのより詳細な編年案の作成と、この時期の日本製螺鈿漆器との並行関係を探り、両者の具体的な影響関係を知ることを目的とする。またこの目的に迫るためには、視野を広げて、東アジアの螺鈿制作に極めて大きい影響を与えた中国製螺鈿漆器の変遷についても検討する必要がある。そこでここではこれら東アジア三地域で共通して採用された特定の文様やいくつかの技術特徴に注目して、まず各地域それぞれの変遷案を設定し、さらに各地域間の比較による相互影響関係の確認と時間的並行関係を検討しようとするものである。また数は少ないながらも、いくつかの作例には紀年銘が伴うこと、また日本ではこれら紀年銘作例に加え、桃山時代を中心とした螺鈿漆器の編年研究が比較的進んでいることから、各時期区分や各作例の実年代についても検討を試みたく思う。なお、ここで述べる報告は、これまで筆者が実施した調査結果に基づく暫定的な見通しであることを、まず始めに断っておきたい。1.方法ある地域の螺鈿器を対象として、その編年案を検討する際には、いきなりすべての器種を総花的に一括して検討するよりは、できるだけ同一器種や器形ごとに検討する方がより望ましい手順かと思う。しかしながら、これまで実見できた該当地域の各種螺鈿漆器は母数に比べその数が限られ、器形・器種別の検討には不十分な数であること、また本研究はこうした各地域全体に対する変遷の見通しを得る目的で着手したことから、ここではこれら地域に共通して利用される文様や一部の技法的特徴に着目して検討を行うものである。とは言え、地域によって主体となる文様が異なったり、ま

元のページ  ../index.html#491

このブックを見る