― 482 ―た独自的な発展や個別的形態なども存在するため、各地域に共通するものばかりではなく、必要に応じ地域に独自的に表れる諸様相についても検討した。所属時期検討指標としてある程度有効と考えるこうした着目点としては、a) 牡丹や唐花など唐草文の葉形、b) 唐草文の起点位置、c) 菊花芯の大きさ・形態、d) 唐草茎蔓への金属線利用有無、e) 唐草茎蔓分岐部の節形、f) 茎蔓の交差有無、g) 曲線部への詳絲(サンサ)技法の適用有無、h) 南蛮唐草の原形と見られる斜行区画ひげ付渦巻文の有無、などがある。以下、これら各観察点について簡略に述べる。a)牡丹や唐花など唐草文の葉形東アジアの螺鈿漆器類においても唐草文は、主要あるいは付属的文様として長期に亘って継続的に使用されたため相互に比較しやすい文様である。ここでは特に葉の形態を時期判断の材料として取り上げた。唐草葉の形態は古くは釣針形あるいはC字形であるが、以後、コンマ形・f字形・三叉形など複雑化し、最終的には紡錘形やノ字形に変化するようである。また小形のf字形や三叉形などからの変化かと思われるが、大形化したチョロギ形(ヒイラギ様)の葉形がある時期より出現する。さらに釣針形の個別的発展形として勾玉形葉なども出現したように思われる。ただし、複数の葉形が同一器面に共存して描かれている事例もあり、また古手の形態が復古的に利用されたとおぼしき場合も存在するので、本指標は全体的視野から総合的に捉える必要があるように思われる。b)唐草文の起点位置唐草文が始まる起点の位置は一様ではない。起点の判断は茎に接続して描かれる葉の向き(基部と葉先端の位置関係)によって行う。唐草の茎蔓端部が描かれている場合、葉の向きがわかれば起点の判断は容易である。高麗時代経箱などでは左右どちらかとなることが多く、古手の中国製螺鈿器では唐草文中央の下端から始まっていることが比較的多いようである。後代には、唐草の茎蔓端が表現されず、起点の判断が困難になる傾向があるように思われるが、こうした場合、茎蔓の中途で葉の向きが相対する箇所が確認されれば、螺鈿制作者はその部分を唐草の起点と意識していたことが推測される。さらに後出的な特徴としては葉の方向の相対点が見い出せない循環唐草となる傾向がある。ただし、こうした変遷は絶対的な指標ではなく、古手の作例でも蓋ふた鬘かづら(蓋側面)や輪花形盆周縁唐草のように、表わされた位置との関係で循環唐草として描かれる場合もあるように思われる。なお、筆者の調査例では起点から唐草遠端までの間で葉が起点側を向く矛盾事例は皆無であることから、葉を描く方向につい
元のページ ../index.html#492