― 483 ―てのルールと意識はかなり厳密なものであったことが窺える。また、茎蔓の起点端部やその中途を起点とする場合、そこに雲形の貝片などを置いて起点を表示した作例も多い。c)菊花芯の大きさ・形態菊花は特に高麗時代螺鈿器の主要文様である。また菊花文は中国の宋元時代にも多く採用された。中国あるいは朝鮮半島螺鈿器の菊花文を見ると、中心に描かれた花芯は小さな円形であるが、後代にはより大形化し、さらにまた二重化・三重化するなど、複雑大形化の過程をたどるようである。d)唐草への金属線利用有無「中国」製螺鈿漆器では基本的に貝片が唐草の茎蔓として一貫して利用されるが、朝鮮半島では古くは金属線が使用され、後に貝片線へと変化する。こうした傾向は唐草葉の形態変化からも認め得るように思われる。ただし、半島では後代に復古表現として金属線で唐草を表現する作例が出現する。e)茎蔓分岐部の節形朝鮮半島および日本においてはある時期から、茎蔓の分岐点に節を表現したと見られる貝片が描かれる場合がある。この貝片表現は当初はチューリップのような刺又形に表されるが、後出的には幾何学的文様に変化する傾向があるようである。f)茎蔓の交差有無16世紀代の日本製螺鈿漆器のいくつかには、唐草の本線的茎蔓とそこから分岐した茎蔓とを交差させる表現がある。管見ではこの時期の中国製、朝鮮製のいずれの唐草にもこうした表現は見出せないようであり、発案地の判断に有効な指標となる可能性がある。g)詳(祥)絲(サンサ)技法の有無詳(祥)絲(サンサ)とは、現代韓国螺鈿制作上の技法名称であり、あらかじめ細長い短冊状に切った貝片やそれを使って文様を表現する技術を示す(注2)。この方法によれば、比較的制作が容易な直線棒状貝片で曲線を造り出すことができるため、螺鈿制作、特に曲線を造る際の簡略的技法として生み出されたと推測される。具体的な出現時期についてははっきりしないものの、本技法は朝鮮製螺鈿にのみ特有なもので、朝鮮時代前期頃に始まったと考えられている (注3)。本研究では唐草曲線の表現技法について検討した結果、古手の唐草は貝片を曲線に切り出して制作するが、ある時期から直線棒状貝片(詳絲)を恐らく器面に押し当てながら短く切りつつ曲線状に貼り付けていく方法が一般化することが確認された。
元のページ ../index.html#493