― 484 ―h)南蛮唐草の原形と見られる斜行区画ひげ付渦巻文の有無南蛮唐草とは、桃山時代の輸出漆器などに蒔絵で描かれる、左右あるいは上下に斜行を繰り返す区画線を描き、その間に多重蛇行曲線を加える特徴的な文様である(注4)。観察を進める中で、中国製螺鈿漆器では時に建物の柱や棟に南蛮唐草に類似する文様が毛彫りで表現されていることが確認された。その形状は、南蛮唐草と同様、左右あるいは上下を斜めジグザグに分離区画する線が走り、その頂部の両側には渦巻文が描かれ、さらに渦巻文の両側からはひげ状の短い突起が伸びているというものである。こうした特徴は南蛮唐草と基本構成原理が共通することから、この文様は南蛮唐草の原形にあたるものと見ることができよう。さらに本文様は明、永楽時代の鎗金経箱にも描かれていることから(注5)、15世紀には出現していたと見られ、中国製螺鈿器の時期を考える際にある程度参考となるように思われる(注6)。以上、いくつかの文様的、また技法的特徴を時期判断に有効な基準として取り上げたが、これらの諸判断基準点は多くはなく、またその存在や形で確実に時期の決定が可能な指標とも言い難い。そこで本稿では、これらを総合的に勘案して表1~3に掲げた各作例の前後関係や所属時期を判断したが、今後それらが変更される可能性はあろうかと思われる。2.調査研究および検討の対象とする作例今回、アメリカ国内の5博物館・美術館に所蔵されている関連作例調査を実施できたが、これに加え、当該年度に実施した日本国内2機関での調査によって実見できた関連諸作例を本報告の直接的な検討対象とする(注7)。さらに過去、国内外で行ってきた調査や、各地で刊行された該当時期の螺鈿に関する展覧会図録や書籍、また欧米の各博物館のウェブページ収蔵品公開データ(注8)、なども随時参照し、画像の判読が可能な範囲で検討を行った。3.検討1)「中国」製、「朝鮮半島」製、「日本」製螺鈿器の識別本研究では経験的および観察結果を元に、当該期の螺鈿漆器を便宜的に、「中国」製、「朝鮮半島」製、「日本」製に弁別した。その基準をごく大雑把に記せば、器種・器形などに加え、「楼閣人物図」や「花鳥文」といった具象絵画的図像が文様の主体となっているものを中国製とし、唐草文などを主文様とするものを朝鮮半島製と見做
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