― 485 ―すというものである。日本本土製と朝鮮半島製の区分は唐草文からは難しい点もあるが、日本独自の器形や特定技法の有無といった点からは比較的容易に思える。もちろん、器物の制作地と螺鈿などの加飾地とが異なる可能性は考慮する必要がある。またこうした基準では制作地が明確にならない作例もあり、これらについてはさしあたって判断を保留している。2)「中国」製螺鈿漆器の検討本報告では、26点の「中国」製螺鈿漆器について検討を行った(表1)。検討の結果、これら元代から清代初期に属すと見られる作品群は大きく3期に区分し得ると考えられる。これらの基準は以下の通りである。「中国」製螺鈿漆器の時期区分と想定年代中国1期:唐草の葉形が釣針形のもの唐草の葉形が釣針状のもの、特にNo. 1のLACMA蔵花鳥人物漆地螺鈿箱(M.87.206a-b)は対象作例中で最も古手であると考えられ、その葉形はこれまでに南宋代から元代の年代が想定されている作例に比肩し得ると思われる。この時期の他特徴としては、菊花芯表現が小さいことが上げられる。しかしながら、No. 3のMet Museum蔵楽奏人物漆地螺鈿菱形盆(L.1996.47.41)にはこうした特徴に加え葡萄栗鼠文といった後出的な文様が描かれており、この時期の作例としてはやや疑念が残る。1期の年代については今後の検討が重要であるが、上記のように南宋から元代の年代が与えられるとすれば、上限は13世紀以降の可能性がある。また河田貞氏はNo. 2の個人蔵花唐草漆地螺鈿八角合子の年代を14世紀後半とされていることを参考にすれば(注9)、中国1期はおおよそ元代から明代初め(13世紀後半―14世紀代)に相当する時期が想定される。中国2期:唐草の葉形が釣針形からより複雑に展開しているもの本期に属すと見られる作例はかなり多い。唐草の葉形はコンマ形・f字形・三叉形など、より複雑化する。また菊花芯がやや大形化するといった傾向も見られるようである。さらに17世紀前半の南蛮漆器に一般的な南蛮唐草の原形と見られる文様が建物柱や棟などに毛彫りで描かれることもある。また「軸盆」と呼ばれる長方形盆の見込み文様は縦向きに描かれるものが多い。実年代の根拠としてはNo. 8の畠山記念館蔵「壬子年」銘花鳥漆地螺鈿長方形盆が重要であるが、ここではこの壬子年が明代宣徳七年(1432)にあたると考えておくと、2期は明代の15世紀から16世紀前半を中心とする時期が想定されるかと思われる。
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