― 488 ―マ形、三叉形、紡錘形といった小形葉の唐草文が明代末頃まで維持されるようである。日本では、16世紀以降、朝鮮半島の影響を強く受けた唐草文を持つ螺鈿器制作が行われたようである。しかしながら、チョロギ形葉のほか三盛形葉、勾玉形葉といった半島ではほとんど見られない葉形や蒔貝地の採用など、必ずしも半島の動向と軌を一にしていたわけではないように思われ、今後こうしたあり方をどのように理解するのかが問題となろう。そうした一方で、詳絲技法は半島よりもかなり遅れ、17世紀初め頃から広く利用されたようであり、桃山時代螺鈿器の制作に朝鮮半島の螺鈿技術が深く関係していたことが推測される。4.まとめ 問題点と今後の課題以上、中国、朝鮮半島、日本それぞれの螺鈿漆器について唐草文を中心とした大まかな変遷案、また相互関係についてある程度の見通しを示した。しかしながら、調査結果および本時期区分案で最も問題に思うのは、中国で多くの作例が確認できるコンマ形、f形、三叉形といった唐草葉形を持つものが朝鮮半島ではかなり少ないためこうした作例を半島1期に含めてしまったことから両地域間に年代的齟齬が生じているという点である。これがどのような実態を反映し、またどのように理解するのかによっては、両地域間の螺鈿史と編年観は大きな変更を迫られるのかも知れない。今回検討を行った作例の数はまだまだ不十分であり、今後、より多くの作例について詳しい実見調査を行うと共に、今回の検討結果についてもさらに多くの観点から検証して行く必要がある。また、螺鈿器以外の漆工品や陶磁器などにも類似の文様が表されており、これらと螺鈿器との関係はどうであるのか、といった点についても方法論的な問題も含めて検討し、より精緻な年代観を得ていく必要があるだろう。注⑴ たとえば、東京国立博物館『中国の螺鈿』1981年、河田貞・高橋隆博『高麗李朝の螺鈿』毎日新聞社、1986年など。⑵ 国立文化財研究所『螺鈿匠』(韓国語)民族院 2006年 pp. 93-97. 『螺鈿工芸』(韓国語)Daewonsa 2007年 pp. 56-59。⑶ Koji Kobayashi, “Turban Snails and Abalone Shells –The technique of mother-of-pearl inlay on the Korean peninsula” Korean Lacquer Art, Aesthetic Perfection, Hirmer 2013年 pp. 79-80。⑷ 南蛮唐草の起源については、かつて荒川浩和氏が中国の渦巻文や蕨手文をその系譜を探る参考とされたことがある(『南蛮漆藝』美術出版社、1971年、p. 151)。中国製螺鈿器に見られるこれらの文様は、南蛮唐草と同じ構成原理を持ち、蛇行曲線の原形と見られる渦巻文を持つことから、南蛮唐草の原形文様であると考えたい。
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