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― 497 ―4.関連のないイメージのモンタージュ的な結合ところでセルゲイ・エイゼンシュテインのモンタージュ理論は、端的に言えば異なる要素のぶつかりによって別の新しい意味が生じるという意味生成の理論である。例えば、座っているライオンの像というショットの次に立っているライオンの像という全く違うショットを入れることで、立ち上がるライオンという別の新しい意味が生成される。エイゼンシュテインの映画は、このように動いている継起的なイメージのなかでは有意だが、ひとたびスティルに分節されてしまうと、相互の画像に何の関連性も見出せないと言えるかもしれない。このことはベーコンが同様に高い関心を払ってきたマイブリッジの連続写真とも通底する。この連続写真が私たちに見せるのは、私たちが何気なく行なっている運動を瞬間に解体したときに現れる、意味から解放された全く見慣れぬ私たちの姿である。ヴァルター・ベンヤミンの言葉を借りれば、カメラは「無意識の視覚」をもたらすのだ(注16)。ベーコンの採用するトリプティックという形式では、そのなかに描かれたそれぞれの空間構成や描かれたモチーフの類似を通じて、その統一性や連続性を喚起させる。しかしながら先に述べた通り、彼は同時にその断絶を強調させもする。エイゼンシュテインがイメージを総合し、一連の意味のあるシーケンスを作り上げるのに対して、ベーコンは画面の総体的調和を維持しつつも、画面間や画面内において意味的な関連を持たせようとしない。関連のないものを組み合わせるというモンタージュ的な技法を用いつつも、エイゼンシュテインの手法とベーコンのそれは、全く逆の効果をもたらしている。このことは、ベーコンがおそらくエイゼンシュテインの映画を見たのちに、彼のモンタージュ理論を知ったことを想像させる。というのも、一連の意味の連なりとして捉えられていた映画的現実が、コマ割り写真の次元で見れば、実は意味を欠いたカットの展開によって生み出されているという事実への気付きが、ベーコンの制作動機になっているように思われるからだ。5.ロジャー・マンヴェル『フィルム』ベーコンは、ロジャー・マンヴェルの書籍『フィルム』を所持していた(注17)。ロジャー・マンヴェルは、ベーコンと同年生まれの映画作家、映画評論家で英国のフィルム・アカデミーの理事長を務めたこともある人物である。彼のこの著作にはセルゲイ・エイゼンシュテインの「戦艦ポチョムキン」におけるオデッサの階段のシーンのスティル写真が15枚掲載されており、そこにはベーコンがしばしばモチーフとして利用した乳母が叫ぶカットも含まれている。また、サム・ハンターが1950年にベー

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