― 548 ―宮寺本〔図17〕・能満院本・ギメ美術館本)もある。(8)第八持瓔珞「左右之手持瓔珞也」とされる第八持瓔珞は、儀軌の通り、左右の手で玉を連ねた瓔珞を持つ姿で表され〔図18、19〕、作例による異同はほとんどみられない。(9)第九皐諦右手に裳(蘘)、左手に独鈷を持すと説かれる皐諦は、①右手に蘘を取って垂下し、左手を袖衣の中に隠し独鈷を横にして持す作例(藤田美術館本〔図20〕・奈良国立博物館本)と、②右手に蘘を取り、左手を袖衣内に入れる作例(常忍寺本)、③左手に蘘を取り胸前に掲げ、右手に独鈷を持つ作例(香雪美術館本)と三つの型があり、表し方は一定していない。ただし、鎌倉時代以降の唐装本では、「形如頂鳥」(法華十羅刹法)を表す鳥形の冠を頭上に表す例が多く、これは、持物の型が異なる作例間においても共通して認められる要素である。(10)第十奪一切衆生精気右手に杵、左手に三股を持すとされる奪一切衆生精気の図像は、作例による異同はほとんどなく、多くは右手に杵を持して立て、左手は三股を腹前で持すかたちで表される。また、鎌倉時代以降の唐装本では、「形如梵王帝釈女」という記述を反映したものと思われる、男形で表される作例(藤田美術館本・能満院本〔図21〕・奈良国立博物館本〔図22〕・香雪美術館本・大和文華館本)が多く認められ、また、「帯鎧状甲」の表現として、藤田美術館本や奈良国立博物館本のように腹甲を付ける例もある。「出頂馬頭也」の記述に準じて、馬頭を頭上に表す作例も多い。以上にみてきたように、唐装十羅刹女像について持物を中心にその異同を確認すると、第一藍婆、第五黒歯、第八持瓔珞、第十奪一切衆生精気は作例による持物の異同がなく表され方が一定しており、その他の尊格は持物の形状や持ち方によって二つないし三つの型があることが明らかとなった。尊格の表し方の近しさは、制作に関わった人的関係および制作背景の近しさを推察させるものであるが、藤田美術館本、常忍寺本、奈良国立博物館本など、図像が共通する羅刹女が多く認められる作例であっても、すべての尊格において一致が見られるわけではないことは、個々の作例の制作背景を考察する上で留意すべき点であろう。また、盧山寺本や根津美術館本といった平安時代の作例においては十羅刹女の図像が必ずしも儀軌に一致せず、作例を越えた尊格どうしの一致が認められるのが鎌倉時代以降の作例であることは、図像の整理が鎌倉時代になってから進んできたことを示していると思われる。平安時代の作例から図像の継続性が強く認められない点は唐装
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