― 559 ―という創意である(注19)。例えば、《コンポジションⅦ》〔図3〕の画面上に浮かぶ大きな逆三角形は、画面に埋め込まれて一瞥しただけでは気づきにくい。しかし、「画面からそれと気づかずに現われて、したがって、眼よりも魂に訴えるようなコンストラクション」(注20)と画家が言うように、観者は、さまざまな色彩とかたちを幾何学的な形態にしたがって時間をかけて享受するよう仕向けられる。カンディンスキーは、こうした手法をもって、絵画の平面性を避けつつ幾何学形態を導入することができると考えた。これは、幾何学形態の抽象的な効果を伝達するという点で、ミュンヘン時代の大きな成果だったと言えるだろう。2.円の求心性と遠心性一方、《コンポジションⅧ》(1923年)〔図4〕が示すように、1920年代の作品を特色づけるのは、円、三角形、四角形といった明快な幾何学形態である。ミュンヘン時代にカンディンスキーは、自らの構成に三角形を導入し、1912年の「形態の問題」というテキストでは、「数、つまり三角形の抽象的な要素が意義あるものとなった。抽象的な関係を求める今日の探究において、数はとりわけ大きな役割を果たしている」と述べている(注21)。しかし、1922年に始まるバウハウス滞在期には、三角形の特権的な位置は円に取って代わられる。このことは、《いくつかの円》(1926年)〔図5〕や《重い円》(1927年)のように、円だけをモティーフとした作品からも明らかであろう。カンディンスキー自身、1930年10月12日付のヴィル・グローマン宛書簡において、円を重視する理由をこう述べている。なぜ円が私を引きつけるのか。それは、1.もっとも控えめな形態であるが、がむしゃらに自己を主張し、 2.明快であるが、無尽蔵に変化に富み、3.安定していると同時に不安定で、 4.静かであると同時にやかましい、5.自己の内に無数の緊張をはらんだひとつの緊張である。円は、もっとも大きな対立の総合である。それは、求心的なものと遠心的なものを、ひとつの大きな形態のなかに調和を保って結び付ける。三つの主要な形態のなかで、円は、四次元へのもっとも明瞭な転換点なのである(注22)。対立する要素を並列するというカンディンスキー独特のレトリックに従ったこの一節は、円に対する関心の在処、とりわけ「四次元」に言及したものとして注目を集め
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