― 561 ―一方、円に見出された動的な要素に着目するならば、ハール=コッホが1923年の《対角線》〔図11〕の左下に見出した「車輪」は有力な源流であろう。ハール=コッホは、直線を「道」、その上の山なりの曲線を「馬上の騎士」、道の左上の黒い長方形を「客車」、その下の2つの円形を客車の「車輪」として同定し、この作品の根幹にダイナミズムを認めたのである(注26)。《対角線》では、円から放射状に延びるのは直線であって三角形ではない。しかし、《対角線》に関連する水彩画〔図12〕や同じ図像的内容を留める《強調された隅》〔図8〕は、円と三角形の組み合わせで車輪を描いており、このモティーフの源流が、《対角線》に採用された図像にあることを示唆している。そして、《コンポジションⅧ》〔図4〕や《白の上にⅡ》〔図9〕は、もはや図像的内容を想起させることなく、運動のダイナミズムのみを抽象化している。2-2. 運動、空間、形象ところで、円に三角形が刺さったモティーフでは、その円の内部に点が施されており、いずれも三角形を引き寄せる求心的な力を与えられている。点の求心性については、《コンポジションⅧ》を取り上げたレイノルズの指摘が非常に興味深い。それによると、画面の「二番目の中心」としてのこのモティーフの「宙に浮いた感じは、引き伸ばされた形態(先が細くなって角が極端に尖っている)の動感によって生み出される強烈な求心的運動、それらを深みへと引き込んでいる中央の黒い点の引力、そして、その終点にわずかに届かないこの運動の抑制によって、極限にまで高められている」のであり、「その尖った角と、それらがみな同じ的(黒い点)を指していることによって、観者は、それらを方向性のある動的なものとして知覚するよう促される」という(注27)。こうした求心的な力の存在は、車輪という図像的源流からだけでは説明ができないだろう。筆者はこれを考えるために、観者の視点の変化を取り上げたい。1914年にカンディンスキーは、《即興、峡谷》(1914年)に小さな人物を描いたことで、観者の視点を画中に導くという新たな着想を得た(注28)。確かにこれ以前、例えば《コンポジションⅦ》〔図3〕のように、幾何学的な構成の要に円形のモティーフを置くという先例はあったが、《即興、峡谷》や、これを踏襲した《モスクワⅠ》(1916年)〔図13〕、《モスクワⅡ》(1916年)では、観者の視点と構成とのかかわり方が根本的に異なっている。これらの作品では、小さな人物によって、観者の視点を取り込むと同時に、そこから外に向かって拡散する全方位的な世界図が実現されているからである。そして、カンディンスキーがこの絵画での試みを、1922年の「ベルリン無審査展の
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