― 563 ―念として現れ始めたのである。『点と線から面へ』でも、円が運動と結びつけられて記述されている。両側面からの力が、一定の条件の下に、点を先へ先へと転がしていく時、そこにできる曲線は、遅かれ早かれ、再び元の出発点に戻ることになるだろう。始点と終点が合流するその瞬間に、両者は跡形もなく消えてしまう。もっとも不安定な、そして同時にもっとも安定した平面─円が生まれるのである(注31)。以上の考察から、カンディンスキーが「求心的なもの」と「遠心的なもの」を円に止揚したことを、その芸術論と造形の変遷を追いながら跡付けてきた。観者の視覚に訴えかける運動の表象は、色彩から形態の領域への拡大し、それに伴い、カンディンスキーの構成における観者の視点のあり方にも変化が生じた。「ベルリン無審査展」の壁画が、絵画と空間に関して転機となったことは、前後の作品を見るとよく理解できるだろう。カンディンスキーの表現主義的な様式が幾何学的抽象絵画へと変遷していった背景には、形態に対する造形思考の深化と、観者と絵画空間の関係に大きな変化があったこと指摘し、本研究の結びとしたい。注⑴Bill, Max. Kandinsky: Essays über Kunst und Künstler. Bern: Benteli Verlag, 1955 (3th ed., 1973) p.182./ 西田秀穂、西村規矩夫訳『カンディンスキー著作集3 芸術と芸術家 ある抽象画家の思索と記録』美術出版社、1979年、205頁。なお、引用は、訳書の該当箇所に場合によって手を加えて記載した。注⑷、⑿、�についても同様である。⑵Rudenstine, Angelica Zander. The Guggenheim Museum Collection: Paintings 1880-1945. Vol. 1. NewYork: The Solomon R.Guggenheim Museum, 1976. p. 275.⑶前掲書注⑴ p. 221. / 244頁。⑷Kandinsky, Wassily. Über das Geistige in der Kunst. 10 th ed. Bern: Benteli Verlag, 1952. p. 52. / 西田秀穂訳『カンディンスキー著作集1 抽象芸術論〈芸術における精神的なもの〉』美術出版社、1979年、57頁。⑸同上書p. 54. / 59頁。⑹Worringer, Wilhelm. Abstraktion und Einführung. (5th ed.) München: R. Piper & Co. Verlag, 1918.pp. 1-4.⑺前掲書注⑷ pp. 74-75. / 82-83頁。⑻代表的な研究に以下がある。Overy, Paul. Kandinsky: Language of the Eye. New York, Washington:Praeger Publishers, 1961; Gage John. Color and Meaning: Art, Science, and Symbolism. Berkley and LosAngeles: University of California Press, 1999; Weiss, Peg. Kandinsky in Munich: The FormativeJugendstil Years. Princeton, New Jersey: Princeton University Press, 1995; 平野啓央「非物質的絵画へ
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