― 570 ―は浮彫り風に表し、背面でも下半身以下を扁平にしている。光背飛天像は背面の上半身と下半身に取りつける1ないし2個の壷金具に、光背周縁部に打ったL字の金具を通して懸けるものだが、その時背面では扁平となる下半身以下が光背に板状に接することで、像は下方を向くことになる。なお、背面の表現は、扁平となる下半身以下も含め多少の省略はなされるが、すべての像が条帛や腰布、雲などを立体的に表していることは、当該部分を全くの平滑にするものもある雲中供養菩薩像との比較において特記される。造形の特色像を仔細に見ていくと気がつくのは、一種の“ゆがみ”ともいえる表現があることである。例えば、南2像の面貌を正面から対面して見ると、右目のこめかみ側が吊り上がり、右眉は左に比べ弧の角度が強く、逆に左眉の方が長い。さらに髻が頭部正中より左側を向いている〔図6〕。同じことは北5像にもいえ、左眉と左目が右のそれよりも長く、髻も若干左側を向いている。また、肩の長さが左右で異なるものがあり、南2像では右肩が左肩よりも長く、北1像では左肩が、北2では左肩が長い。また、南4像では、左肩を下げる角度が不自然なほど急である。これらは、頭部と上半身の正中線に対面して見たときに初めて目立ってくるものであり、像を光背に懸けた状態で本尊側から見たとき、より自然に、奥行きをもって見えるようにする工夫であるといえるだろう(注4)。右を向く南2像を例にとると、像を光背に懸けた時、本尊側に面貌の左側を見せるため、左の眉、目を長くすることで本尊から見える部分が増し、逆に右側は吊り上がり気味にすることで奥行が出ることになる。髻も頭部正中よりも左に振ることは、光背に懸けた状態では本尊側に向くことになる。右肩が長いのも同じ狙いであると理解されよう。以上は、ほかの像の場合も同様といえる。ここに表現されるのは、立体を押しつぶしたような造形であり、まさに浮彫り的な表現であるといえる。これは、雲中供養菩薩像では、例えば雲中南4像などの跪坐の表現などにも見られるが、眉や目の表現、髻の向き、両肩の長さを変えるといったほどのものはない。この違いはひとえに、光背と堂内の長押状小壁という安置場所の違いからくるもので、本尊の光背という二次元的な限られた空間で、雲や体勢に進行方向を明示しながら飛翔する飛天像を表すための表現と見られる。動きのある飛天像を部分に応じて押しつぶして変形することで、本尊側から見た時には、動勢を保ちながら自然な姿に見えるよう表すことに成功しているといえるだろう。かたや、長押上小壁という元来奥行きがある堂内両側面に安置される雲中供養菩
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