― 596 ―置けることに安心していた。本講演では、まず、ベラスケス随一の大作である《ラス・メニーナス》(プラド美術館)がスライドで示されつつ、同時代のスペイン人画家が当時、高貴なジャンルと見做されていた宗教画の制作に傾くなか、いかにベラスケスが例外的に肖像画に価値を見出していたのかが語られた。以降、ベラスケスの肖像画家としてのルーツと変遷が画業をたどりつつ、時代背景とともにわかりやすく論じられる。まず、ポルトゥース氏はベラスケスのセビーリャ時代における宗教画やいわゆる「ボデゴン」を採り上げ、それらの登場人物がすでに画家の身近な人物の「肖像」であったことを指摘した後、宮廷画家登庸後の作品へと話を展開する。その論旨を一文で約せば、「ベラスケスは1620年代から30年代、40年代、50年代へとスペインの政治情勢が様々に移るのに呼応して肖像画の描き方を変え、王侯貴族の相貌を的確に写し取るのみならず、彼らの背後に渦巻く宮廷の希望や不安まで描き出すことで、モデルの存在そのものを画面に再現していた」というものになろう。本講演は約2時間10分(通訳時間込)に及びながらも、平明な論理と豊富なスライドにより、時間が経つのを忘れるかのような充実ぶりであった。また、ポルトゥース氏ならではの流麗なスペイン語と貫井氏の明晰な日本語も、ベラスケスの深遠な肖像世界へと聴講者を誘う心地よいハーモニーを奏でていた。正式な質疑応答の機会は時間の都合により設けられなかったものの、ポルトゥース氏は講演会後、全国から集まったスペイン美術史研究者と議論を深めていた。また、同日の夕食会でも、スペインのことから日本のこと、愛犬のことまで、様々な話題は尽きなかった。2) 「ベラスケスと古典古代の神話(Velázquez y la mitología clásica)」逐次通訳:川瀬佑介(国立西洋美術館 研究員)日時:4月27日(月) 午後5時30分から7時30分まで場所:上智大学中央図書館9階L-921本講演においてポルトゥース氏は、ベラスケスの神話画にスポット・ライトをあてた。ベラスケスは特に宮廷画家となって以降、基本的に肖像画の制作に従事しながらも、宗教画と神話画についても注目すべき作品を残している。それらの「ベラスケスの歴史画」は、現在、ポルトゥース氏が研究を進めているテーマの一つであるという。
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