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― 597 ―本講演会でも、「ポルトゥース氏がスペイン語で話し、それを段落ごとに通訳者の川瀬佑介氏が邦訳していく」という「逐次通訳」方式が採られた。川瀬氏は、ベラスケス同様に当時のスペイン人として例外的な神話画の制作者であったジュゼッペ・デ・リベーラ(1591~1652年)を中心に近世・近代のスペイン美術史を専攻し、本講演の通訳者として適任であった。本講演においてポルトゥース氏は、まず、ベラスケスによる神話画の作例を基本的なデータとともに紹介した後、それらの内容が非常に曖昧、かつ複雑であり、これまで様々な作品解釈を生み出してきたことを問題として提起した。以降、その曖昧性と複雑性のメカニズムや理由を探るべく、《酔っ払いたち(バッカスの勝利)》、《ウルカヌスの鍛冶場》、《マルス》、《ラス・イランデーラス》(いずれもプラド美術館)を制作年代順に採り上げ、それらの画面に見え隠れするベラスケスの目論見を特に黄金世紀の文学における傾向を手がかりに論じる。つまり、ベラスケスの神話画が《酔っ払いたち》から第一次イタリア旅行を経て《ウルカヌスの鍛冶場》へと変容を遂げたことを説明し、《マルス》が抱える「矛盾」の謎に迫った後、《ラス・イランデーラス》についてセルバンテスやペレス・デ・モヤの著作を視野に収めて考察し、同作を当時の詩にも似た高尚な性格をもつ絵画として明快に位置づけたのである。本講演は、ポルトゥース氏の気遣いにより約1時間30分(通訳時間込)にまとめられ、その後、約30分の質疑応答の時間が設けられた。スペイン美術史の研究者はもとより、様々な専門家が日本語、あるいはスペイン語で講演の内容について活発に質問し、それに対してポルトゥース氏は川瀬氏の的確、かつ流暢な通訳を交えつつ、会場全体に向けて明瞭に回答していた。そのため、聴講者は集中力を切らすことなく、最後までポルトゥース氏の語りに耳を傾けていた。本講演会には、長崎の講演会よりも大勢の、かつ多分野の研究者が全国から集まり、講演会後のひと時、あるいは同日の夕食会でもポルトゥース氏と議論を重ねていた。また、夕食会では同氏の日本文化への愛好も語られ、皆が互いに刺激を受けた一日となった。おわりに本招致の最大の目的は、スペイン黄金世紀美術の研究者であるハビエル・ポルトゥース氏を招き、「ベラスケスの肖像画と神話画」を総合テーマに長崎と東京で講演してもらうこと、およびそれを通してスペイン美術史と周辺各分野の研究の進展に少しでも寄与することに置かれていた。それらの目標は、ポルトゥース氏はもとより、

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