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― 603 ―したのが、より簡便で安価なエッチングや写真ということになる。しかし、絵画複製に用いられる写真の割合が増加していくに伴って、絵画イメージが大量に世界中に流布した反面、大きな問題も惹起した。それは、今日の美術史や写真史研究において痛感させられることであるが、美術、写真の双方において、複製写真は表現とは見なされていないため、実作例や関連資料が散逸しており、ゆえに、体系的な研究が進んでいないという点にある。国内外での研究の状況絵画複製写真については、1860年代からフランスの画商グーピル商会がジャン=レオン・ジェロームら同時代の画家や、オールドマスターの作品の複製写真を売り出していたことが知られている。それゆえ、グーピル商会の複製写真の作例の豊富さやその活動実態は、複製写真を研究するにあたっての一つの手がかりになると考えられる。今日、グーピル商会の複製写真に関する資料を有している機関として、ボルドーのグーピル美術館の存在が知られており、報告者は、今回の助成による派遣においても同美術館の訪問調査を第一の目的としていた(注1)。グーピル美術館主催の展覧会の中でも、複製版画や複製写真を主眼としたものとして、〈ジェローム&グーピル─芸術と企業(Gérôme & Goupil: art et entreprise)〉(2000-2001)等が注目される。ただし常設展示等はなく、独自の展示施設を有しているわけでもない。ボルドー市のホームページによれば、同市のアキテーヌ博物館に併設されている美術館という位置づけである。実際、国鉄ボルドー駅や観光案内所で配布されている観光客向けの地図にも、グーピル美術館の存在は明記されている。ホームページでは同館所蔵資料等は研究者に対していつでも閲覧・調査を受け付けるとだけ記されている。実際、今回の訪問調査においても、アポイントは比較的容易に受け入れられた。しかし、実態としては、グーピル商会関係の複製写真の実作例や関連資料が体系的に調査・研究されているかという点については疑問が残る結果となった。というのは、実質的に同美術館はアキテーヌ博物館の一部署的な位置づけであり、展覧会も数年に一度開くという、いわば非常設美術館の形態をとっているからである。例えば、報告者が事前調査で得ていた知見として、〔図1〕のように、グーピル商会が売り出していた複製写真には台紙裏面にナンバリングが施されているが、これらが何番まで存在しており、番号と作品名同定さえ未だ詳らかになっていないのが実情でもあった。他方で、今回の調査によって浮かび上がった研究課題もある。渡航前までの事前調査によって、グーピル商会は1860年前後から絵画複製写真の製作・販売を

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