― 605 ―フランス写真協会である。フランス写真協会は、1855年に設立された民間団体であるが、設立当初はウジェーヌ・ドラクロワやテオフィール・ゴーティエといった画家や美術批評家も活動に与していたことで知られる。しかしながら、創設当初からの膨大な歴史的資料と会員の写真作品を有している同協会においても、これらの写真家による複製写真の作例はほとんど残されていなかった。やや話題が逸れるが、複製写真は現在でもパリ市内の古書店などを巡れば容易に入手できるものである。その大部分は名刺判サイズで、いわゆる古写真として肖像写真などとともに雑然と陳列されている場合がほとんどである。フランス写真協会研究員によれば、例えば肖像写真が1860年代に年間数億枚が生産される状況において、写真家か被写体が有名であるなどの特別な意味合いを有していない限り、これらが体系的なコレクションやアーカイブにならないのと同様、やはり安価で大量に流通していた絵画複製写真も同協会が積極的に収集する対象とはなってこなかったのではないかということであった。歴史に裏打ちされた豊かな写真コレクションを管理している団体のこうした考察の中にも、やはり複製写真が美術館で販売している絵画作品の絵はがき程度の価値しか持たれてこなかったことを物語っていよう。そういった意味では、先述のグーピル美術館の活動は萌芽的ではあるものの、美術史学に新たな方向から光をあてる意義を有しているだろう。実際、2011年にオルセー美術館で開催されジャン=レオン・ジェロームの展覧会においても複製写真が多数出品されており、美術史と近代における絵画イメージの複製・流通の関係性は次第に注目されているように感じられた。一方で、繰り返すようではあるが、作品としてよりも資料的価値としての認識が強い複製写真は、例えばフランス国立図書館などでさえ、どの程度の量を所有しているのかが判然としない。その他、今回の調査対象機関ではないが、パリのギュスターヴ・モロー美術館にも、画家旧蔵の複製写真が大量に残されている。これはグーピル商会やイタリアのアリナリをはじめ、様々な写真家の手になるもので、正確な数も把握されていないという。モロー旧蔵の版画については、田中麻野氏が2009年にパリ第Ⅳ大学に提出した博士論文Gustave Moreau et l'estampe(注3)において、悉皆的な調査に基づく総目録を作成している。しかし、この目録の作成構想の段階においても、写真については数が膨大であるため対象外とされたという。このように、国外では複製写真が未だ明確な研究対象とされておらず、さらには、それに先立つアーカイブの構築も依然として萌芽的段階を脱していないことが浮かび
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