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― 52 ―れる。つまり池田家旧蔵の能面の中には、藩主(ここでは池田綱政)が自らの好みを反映させたものが含まれており、その制作においては藩主の積極的な関与が認められるのである。おわりに本稿ではまず、岡山藩主池田家旧蔵の史料群について、近代の池田家による管理状況を紹介した上で、それらの構造と歴史的な意義を概観した。その結果、現在林原美術館で所蔵している能楽関係史料を含む池田家旧蔵品は、大正時代に行われた同家の売立の対象から除外されたものであることを確認した。次に同館で所蔵する池田家旧蔵の能面と、それらの由緒が記された「御面控」について検討した。その結果、従来「特殊な命名」とされてきた池田家旧蔵の有銘能面の名称について、第二代岡山藩主の池田綱政が制作に携わっていたことがわかった。池田家旧蔵の「特殊な命名」がなされた能面は、藩主が人生の節目の祝儀や古歌などを参考にして、自ら名付けたものであった。あわせて同史料から、綱政の「御好」で制作された能面があったことも判明した。綱政は定型のものに飽き足らず、自らの好みを反映し、時には本面よりも小振りに能面を制作することで、自らが理想とする演能を目指したのであろう。現在に伝わる岡山藩主池田家の能楽美術・文化は、能楽を愛好した歴代藩主の豊かな教養やや好みが反映されて、形づくられてきたものなのである。注⑴中野美智子「岡山藩政史料の存在形態と文書管理」(『吉備地方文化研究』5、1993)、同「池田家文庫岡山藩政史料の構造把握をめぐって」(『吉備地方文化研究』17、2007)を参照。⑵拙稿「『黄葉亭記』の原本と写本─岡山藩主池田家旧蔵資料の構造分析を踏まえて─」(『MUSEUM』641、2012)。⑶池田家文庫所蔵。資料番号は中仮210・08-29。⑷池田家で近代に所蔵していた記録類を管理するために作成された目録。(1)~(4)は明治18年、(5)・(6)は明治21年の表書きをもつ。資料番号は(1)A6-7、(2)A6-8、(3)A6-9、(4)A6-10、(5)A6-11、(6)A6-12。⑸池田家文庫C13-17。⑹池田家文庫C3-240。⑺「大正7年8月 諸什器取調表」(池田家文庫C12-267-1)。⑻「後楽園より当御邸へ相廻ル御道具記写」(池田家文庫C12-278)。⑼『池田侯爵家御蔵品入札』(1919)。⑽池田家文庫C12 267-7。⑾田邊三郎助「池田家伝来の能面」(『池田家伝来 能面』、学研、1993)。

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