― 76 ―⑧ペーター・シェーファー出版『ラテン語本草』と『健康の庭』─15世紀印刷本草の挿絵分析─研 究 者:慶應義塾大学 理工学部 専任講師 池 田 真 弓序1480年代半ば、マインツで印刷業を営んでいたペーター・シェーファーの印刷所から、挿絵入り本草の印刷本が相次いで出版された。それぞれ、『ラテン語本草』(Herbarius latinus、1484年印行)と、『健康の庭』(Der Gart der Gesundheit、1485年3月28日印行)の名で知られるこれらの本は、挿絵入りの印刷本草としては最初期のものである。両作品とも出版直後に海賊版が出回るなど、当初からその反響は大きかったが、その特徴はなんといっても豊富な挿絵である。様々な薬草や動物などを描いた木版挿絵が、前者には150点、そして後者には実に381点も挿されている。実はこの2冊には、その製作過程に密接な関わりが存在すると同時に、重要な相違も認められる。この2冊の本草を、その挿絵を中心に分析し、それぞれの持つ特徴と意義を明らかにし、さらには両作品を本草挿絵の伝統の中に位置付けて考察するのが本研究の目的である。1.『ラテン語本草』の基本情報(注1)まず、『ラテン語本草』の情報を確認する。本書冒頭、fol. 1rには「マインツの本草、1484年印刷」と書かれたタイトル、そしてその下に印刷業者ペーター・シェーファーの標章が印刷されている(注2)。本書は全174フォリオ、クォート版で印刷されており、片手で持って扱える程度の大きさである(注3)。『ラテン語本草』との呼び名が示す通り、テキストはラテン語で書かれている。その構成としては、上記のタイトルページ(fol. 1r)、序文(ff. 2r-2v)、目次(ff. 3r-4r)と続いた後、150章にわたり、種々の薬草とその効能について挿絵入りで解説した第一部が始まる(ff. 5r-154v)。続く第二部では、96の短い章で本草を効能別に分けて簡単に解説している(ff. 155r-174v)。フクスは本書の編纂者について、マインツとフランクフルトで医師として活動したヨハン・ヴォネッケ・フォン・カウプ(Johann Wonnecke von Kaub)であると推測した(注4)。後述の通り、『健康の庭』の編纂に当たった可能性が高いことと、ギーセン大学所蔵の断片中、本文の最終ページにあたる箇所に同時代の筆跡で「マインツ印行、医学博士ヨハン・フォン・カウプ師による出版」との書き込みがなされているのがその理由である。(注5)。さらに筆者の調査により、ベルリン州立図書館所蔵本に
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