― 78 ―ージで一定しているため、挿絵のサイズ、つまり版木の大きさもほぼ一定のもの、恐らく105╳90mm程度のものが使われたようである。明瞭かつ均質な挿絵実現のために、デザインや大きさに一定の注意が払われていたであろうことが想像できる。本書における統一性は、挿絵の色彩にも及んでいる。『ラテン語本草』は、一部のコピーの挿絵に彩色がなされているが、筆者がこれまで確認した彩色コピー8部は、全てほぼ同色で彩色されていた(注10)。なかでも注目すべきは、第101章、オランダシャクヤク(Pionia)の彩色である〔図3、4〕。元々この木版挿絵には花は描かれていないが、彩色されたコピーでは全て、萼に当たる部分の間を埋めるように赤い絵具が塗布され、花が描かれている。この現象は共通の見本を参照して彩色がなされたと考えなければ説明がつかない。ここから、これらの彩色コピーは出版元で、一定の規格のもとに彩色されたと考えることができる。ところで『ラテン語本草』の挿絵は、意図的な要素を考慮したとしても写実的とは言い難く、何らかの手本を参考にした可能性を検討する必要がある。本草の挿絵は中世写本の伝統が根強く、とりわけ、12世紀に執筆され、ヨーロッパで広く流布した本草『単味薬について』(De simplici medicinaまたはCirca instans)の挿絵伝統が主流であった(注11)。事実ニッセンも、本書の挿絵はCirca instansの流れを汲んでいるとしている(注12)。そこで『ラテン語本草』の挿絵を、Circa instans系統の写本数点の挿絵と比較してみると、意外にも共通点はほとんど見出せないことが判明したのみならず、画家が実際の植物を参考にしたか、少なくとも実物を知って描いている可能性があるものも少なからず存在することが分かった(注13)。例えば、イチゴ、ユリ、ポロネギ、ホウレン草、ビートなど、地元で採れたであろう植物は、簡略化されているとはいえ、その特徴を良く捉えている〔図1、5〕。逆にドイツでは馴染みのないマンドレークは、実物とはかけ離れた姿で描かれているが、意外にもCirca instansの伝統との関連も見出せない〔図6、7〕。いずれにせよ『ラテン語本草』の挿絵は、中世の挿絵を手本に描かれたという従来の見解は不十分で、簡略化されているとはいえ、植物の特徴をしっかり捉えて描かれているものも少なくないことが判明した。3.『健康の庭』の基本情報(注14)続いて『健康の庭』について見ていく。『ラテン語本草』の一年後に出版された本書は、前者とは全く異なるタイプの本草であることは両者を一瞥しただけで明らかである。まず、本文はラテン語ではなくドイツ語で書かれている。そしてその大きさだが、本書はチャンセリー・フォリオ版で、筆者が調査した中で最大のコピーは
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