― 80 ―はロイヴィッヒが描いたということになるが、事実はそうではない。そこで、次に本書の挿絵を詳しく検討する。4.『健康の庭』の挿絵『健康の庭』の挿絵は『ラテン語本草』とは対照的に、規格統一の意識が希薄である。それは例えば、自然主義的に描かれた絵と、稚拙とも呼べる極めて概略的で様式化された絵が混在している点や、版木の大きさやレイアウトにばらつきがある点などに示されている〔図9、10〕。とはいえ一部の挿絵は、その写実性や芸術性が高く評価されており、例えばシュスターは、65枚ほどの挿絵を特に質の高いものとしてロイヴィッヒの手に帰した(注20)。しかし、ロイヴィッヒ作と断定しうる『聖地巡礼』の挿絵や、彼が担当したと考えられる本書口絵〔図8〕と第四部冒頭の挿絵を基準とした場合、それらと同一の手と言いうる作品は、65枚中、20に満たないと筆者は考える〔図9、11〕。さらに注目すべきは、本書中、比較的自然主義的に描かれた挿絵の多くは地元で自生あるいは栽培されているものが多い点である〔図9〕(注21)。筆者がロイヴィッヒの手に帰したものについても、ほとんどがドイツ国内で目にする動植物で、玉ねぎ、レタス、野ウサギ、カブなど、画家にとっても馴染み深いであろう対象物が活き活きと描かれている〔図9〕。それに対して、彼の手による「異国の」植物は恐らくフレンチ・ラベンダーと甘松のみであると思われる〔図11〕。そのうち前者は比較的実物を想起させる姿で描かれているが、後者は全く実物と異なっている。つまり、ロイヴィッヒが巡礼の際にドイツ国外の薬草を記録し、本書の挿絵に反映させたという事実は、実際の作品からは確認できないのである。次に、概略的に描かれている挿絵についてだが、その大半はCirca instans系統の挿絵との類似が見いだせる〔図10、12〕(注22)。恐らくその系統の写本が少なくとも1冊は、挿絵の手本として使用されたのであろう。そしてその写本は、テキストの編纂にも使用されたに違いない。挿絵の手本としては、Circa instansとは別に、ブライデンバッハ自身が所有していた写本も使用されていたことが、ミュラー=ヤンケの調査により判明したが(注23)、その他に、15世紀半ばよりライン地方で流通していた銅版トランプの図柄を手本として挿絵を描いたケースも確認できた。このトランプは、写本装飾画家などの図柄集としても用いられていたことが知られているが(注24)、『健康の庭』では、オダマキやバラにトランプの柄との類似性が見出せるほか、鹿の図柄は酷似しており、より直接
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