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― 82 ―のような、国内外の薬草や動物に興味を持つ富裕層が想定されていたのではないだろうか。ロイヴィッヒを挿絵画家として採用し、序文に挿絵の質に関する言及が繰り返されたのも、挿絵を見て楽しむという読者の利用法が想定されていたと考えれば説明がつく(注28)。『健康の庭』の実際の所有者層については、調査したコピーに残されている情報がほとんどなかったこともあり現段階では把握できていないが、パリ国立図書館所蔵本には、利用者が挿絵に注目していたことを窺わせる書き込みがある。例えば象の挿絵の下には「とても強い動物」(“est fortissimus animal”)、狐の挿絵の脇には「狐はとてもずる賢い動物」(“Vulpis est animal callidissimus”)といったものである(注29)。また、本書の口絵上部に所有者の家紋が入れられるように無地の盾が描かれていることも、本書が単なる実用書ではなく、一種の贅沢品と見なされていた可能性を示唆する〔図8〕。本書出版の翌年にブライデンバッハが出版し、ロイヴィッヒ作の挿絵がふんだんに入れられた『聖地巡礼』の読者層と本書のそれとは、そう変わらなかったのではないだろうか。『ラテン語本草』と『健康の庭』の挿絵は、本草挿絵の伝統と役割、動植物の写実描写の問題、印刷本での挿絵製作といった様々な論点を提示している。これら2冊を分析することで、中世から近世にかけて本草の形と役割が変わっていく、その過程の一部が見えてくるものと考える。注⑴ISTC (Incunabula Short Title Catalogue) ih00062000.http://istc.bl.uk/search/record.html?istc=ih00062000(2015年5月4日閲覧)。本ウェブサイトには、オンラインで閲覧可能なデジタル・ファクシミリのリストが掲載されている。⑵“Herbarius・Ma=/ guntie impressus・/ Anno &c・lxxxiiij".⑶筆者が調査したもののうち最大のものは、ベルリン州立図書館Inc. 1540a (220╳153mm)である。⑷R. W. Fuchs. “Die Mainzer Frühdrucke mit Buchholzschnitten 1480-1500.” Archiv für Geschichte desBuchwesens 2 (1960): 92–93.⑸“Jmpressum maguncie Editum per magistrum iohannem De cuba medicine professorem”. Ink S 67065(1), fol. 18v.⑹Inc. 1540a. 該当フォリオはfol. 174v. 筆跡の判断についてはベルリン州立図書館研究員FalkEisermann氏の助力を得た。⑺さらに、フランクフルト大学図書館Inc. Oct. 411, fol. 1rに以下の書き込みがある: “Orate pro saluteJohannis de cuba medicine prof[essoris] et pro salute anime sue uxoris” (「医学博士ヨハン・フォン・カウプの救いと、その妻の魂の救いのために祈りたまえ」)。K. Ohly und V. Sack. Inkunabelkatalogder Stadt-und Universitätsbibliothek und anderer öffentlicher Sammlungen in Frankfurt am Main. Vol. 1.Frankfurt am Main: Vittori Klostermann, 1967, 264 (Nr. 1423).

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