― 88 ―⑨1940年代日本美術の総合的研究研 究 者:三重県立美術館 学芸員 原 舞 子はじめに日本における1940年代という10年間は、一般的に1945年を境として戦前と戦後に分けて考えられており、日本美術史の分野においても同様であった。しかし、歴史学においては1970年代から、戦前と戦後の間に断絶ではなく連続を見ようとする説が有力となり、断絶論と連続論の双方の蓄積がなされてきた(注1)。また近年、美術の分野においても、戦前と戦後を繋ごうとする研究成果が生み出されてきている。本研究はこうした研究状況を踏まえて、20世紀中最も変化の激しかったこの10年間の連続性に着目することで、1940年代の日本美術の再検討を試みるものである。1.主な先行研究について日本美術において1940年代を対象に含む先行研究は、通史的な記述の中に見ることが出来る。近年のものでは『美術の日本近現代史─制度・言説・造型』(注2)、『日本美術全集18 戦争と美術』(注3)などがあるが、とりわけ前者は日本の領土の拡大と縮小を踏まえた上で、戦前と戦後の連続性に紙数を割いており、本研究も多くを負っている。また代表的な展覧会として「昭和の美術:所蔵作品による全館陳列」(東京国立近代美術館、1989年)と「戦争/美術 1940-1950 モダニズムの連鎖と変容」(神奈川県立近代美術館、2013年)という二つが挙げられる。前者の図録論文では、 1910年前後生まれの作家(北脇昇、靉光、瑛九、松本竣介ら)の戦時下の作品が戦後美術を準備したとする(注4)。だが、特定の世代だけではなく、様々な世代における連続性を探ることが重要なのではないかと思われる。一方で後者は、困難な時代を生きた画家たち(松本竣介、朝井閑右衛門、麻生三郎、鳥海青児、山口蓬春ら)の仕事を、モダニズムの成熟と変容という視点から捉えようとする。けれども、その趣旨を鑑みればこそ、絵画以外の他のジャンルにおける連続性も看過されるべきではないだろう。それゆえ、本研究ではより広い射程のもとに、従来の1940年代史観からこぼれ落ちた「語られざる作家たち」の活動を取り上げることで、この時代を連続性の中で捉えてみたい(注5)。
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