鹿島美術研究 年報第33号別冊(2016)
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⑩ジョージア・オキーフとアルフレッド・スティーグリッツ・コレクション研究研 究 者: 武蔵野大学 非常勤講師  玉 井 貴 子はじめに本研究はアメリカ人画家ジョージア・オキーフ(1887-1986)と、写真家で彼女のパートナーであったアルフレッド・スティーグリッツ(1864-1946)の作り上げたコレクションを考察対象とするものである。1924年にオキーフの夫となったスティーグリッツは写真家としてだけでなく、20世紀初頭からニューヨークで前衛美術の推進役としても活躍していた。自らの画廊291や雑誌『カメラワーク』などを通してスティーグリッツは、セザンヌやマティス、ピカソらヨーロッパのモダン・アーティストをアメリカにいち早く紹介している。また彼はオキーフの最初の個展を291で開いたり、ジョン・マリンやアーサー・ダヴといった若いアメリカ人画家たちの展覧会も積極的に開催していた(注1)。さらにスティーグリッツは作家たちを支援するために彼らの作品を購入していたが、自らの写真や気に入って購入した作品なども合わせ、晩年には数千点にも上る芸術作品を所有していた。このコレクションは彼の死後、「アルフレッド・スティーグリッツ・コレクション」として全米の6つの美術館や図書館に寄贈される。これは作品の整理を託されたオキーフがコレクションを分割して各機関に寄贈したためであった。オキーフはまたこれらの寄贈先に自らの作品を寄贈または遺贈することもあったが、自作品もコレクションの一部となるよう指示してもいる(注2)。これらのことからスティーグリッツ・コレクションはスティーグリッツによって収集が始められたとはいえ、その最終的な形はオキーフによって決定されたといえるであろう。またオキーフはコレクションを整理するために3年の間ほとんど絵画制作を行っていない。それ程集中して取り組んだコレクションとは彼女にとっても重要なものであったということができる。このようにオキーフとスティーグリッツ・コレクションとの関係は深いとはいえ、両者についてだけでなくコレクションについての詳細な研究もまだ十分になされていない。先述したようにオキーフは本コレクションの整理に精力的に取り組んでおり、コレクションに関する研究を進展させることは新たなオキーフ像につながる可能性があるだろう。本報告では先行研究において取り上げられたことのない、寄贈先の一つであるフィラデルフィア美術館館長の回想録の草稿を紹介するとともに、オキーフによる各機関のコレクションの構成方法の一部について考察を行い、オキーフとス― 102 ―

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