鹿島美術研究 年報第33号別冊(2016)
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1、アルフレッド・スティーグリッツ・コレクションについてティーグリッツ・コレクション研究の一助としたい。アルフレッド・スティーグリッツ・コレクションとは、スティーグリッツが亡くなったときに所有していた美術品(絵画や版画など)800点以上と写真2,700点あまりからなる作品群を指す(注3)。美術作品にはロダンやマティス、ピカビアなどヨーロッパのモダン・アーティストをはじめとして、オキーフやマリン、マーズデン・ハートレーらアメリカ人作家の作品が含まれている。写真は約2,500点がスティーグリッツの作品で、その他は友人のエドワード・スタイケンらスティーグリッツ以外の写真家の作品となっている。本コレクションは質・量ともにコレクションと呼ぶにふさわしい本格的なものであるものの、先述した通りスティーグリッツは作家を支援するために作品を購入することが多く、収集が第一の目的ではなかった。例えばスティーグリッツは1905年から17年まで運営していた画廊291でピカソらヨーロッパのモダン・アーティストの展覧会を開いていたが、売れ残った値も安い作品を作家に戻すことが忍びなくて作品を購入していたそうである(注4)。また同様にアメリカ人の作家たちを支援するためや、彼らの発展の記録を残すために作品を購入していた(注5)。特に1910年代後半からは新しいアメリカ美術の促進に力を入れており、ヨーロッパの作家の作品が欲しかったとしてもアメリカ人の作品を優先して購入したそうである(注6)。このように見てくるとスティーグリッツのコレクションは愛好家のコレクションとは性質が異なるといえるが、その特異さはオキーフの次の言葉からもよく理解できる。スティーグリッツはコレクションを所有しているという特別な意識は持っていなかったと思います。むしろアーティストを保護しているという意識をもっていました(注7)。そしてコレクションの具体的な整理をしないままスティーグリッツが1946年に82歳で亡くなると、遺言執行人となったオキーフは3年をかけてコレクションを整理し(注8)、1949年に全米の6つの機関に分割して寄贈したのである。寄贈先となったのはニューヨークのメトロポリタン美術館、シカゴ美術研究所、フィラデルフィア美術館、テネシー州ナッシュビルにあるフィスク大学、ワシントンDCのナショナル・ギャラリーと議会図書館である(注9)。― 103 ―

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