1.2015年度助成① エルミタージュ美術館所蔵錦の閲覧調査─北方草原騎馬民族木槨墓(クルガン)出土の中国錦の調査─研究代表者:美術史家(古代染織) 横 張 和 子はじめにエルミタージュ美術館(ロシア、サンクトペテルブルグ)における閲覧調査は実質4日であったが、長年、念頭にあって実際に見ることを希求していた北方ユーラシア古代・中世の染織品(前3世紀-後9世紀)のほとんどすべてを実見することができた。それは筆者の研究の最終盤において決定的に意義のあることであった。日程の第1日(月曜日)は休館日であった。人気のない展示室においてノイン・ウラ出土品(紀元前後)の観察および撮影をおこなった。第2日はスタッフの研究室の一角において主要な閲覧目標であったノイン・ウラ資料「新神霊」錦を直接観察し細部を撮影した。第3日は1970-80年代に北カフカス山中で発掘された染織品(8-9世紀)の、ほぼ全体を見て写真撮影をした。次いで出発直前に情報を得た研究者スヴェトラーナ・パンコーヴァ博士と談話の時をもった。第4日はシリアで発掘され、ロシアに移譲され展示されている大きな石碑「パルミラ関税法碑文」を撮影し、その後、地下1階に復原的に展示された南シベリア、パジリク古墳出土品(前3世紀)をみた。いずれも展示には工夫が凝らされ、美術館がいっそうの充実に向けて精力的に活動をしていることが感じられた。写真撮影は共同研究者宮下佐江子によって精力的に行われた。帰国後に確認したそれらからは、短時日の日程であり、装備も充分とはいえず、簡易調査とかしか言えないが、それでも実物から迫るリアリズムはやはり感動的であり、古代文化遺産の豊かさを実感するものであった。エルミタージュ美術館訪問閲覧の仲立ちには、東京、ロシア語学院の藻利佳彦氏の熱意ある計らいがあった。下検分もなされた。その甲斐あって調査の便宜と場が提供された。担当部署の責任者ユリア・エリヒナ博士の誠実な配慮はありがたかった。この訪問閲覧に対して、エルミタージュ美術館の「人類の遺産とその知識はひろく分かち合う」という理念において金銭的要求などはまったくなかった。滞在中の安全をかねて通訳をアレクサンドル・ゲルツェフ氏にお願いした。我々の仕事が順調かつ効率― 1 ―Ⅰ.「美術に関する調査研究の助成」研究報告
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